慶應義塾大学通信教育部シラバス

科目名
行政法
担当教員名
仲田 孝仁
科目設置 経済学部専門教育科目 授業形態 夜間スクーリング
科目種別・類 単位 2
キャンパス 三田 共通開講学部 法学部専門教育科目:行政法
設置年度 2022 授業コード 72219
開講期間 10月5日(水)~12月28日(水) 曜日・時間等 水曜日、18:20~20:05

授業科目の内容

 講義では、各種行政活動に共通する通則的な理論である「行政法総論」と、違法な行政活動に対する事後的な権利・利益の救済制度である「行政救済法」とを学ぶ。公務員として任用された場合は、実際に法律や条例を運用する。民間企業であっても行政の規制が及ばない業種・業界はないと言っても過言ではない(許認可事項は1万件(14818件、平成26年4月1日時点)を越える)。さらに、一市民としても、運転免許や各種営業許可の取得、申請・届出、家庭ごみの収集、生活保護費の受給、年金、税金の課税処分など行政とのかかわりは切っても切れない(東京メトロ(地の底)から「宇宙航空研究開発機構(JAXA、独立行政法人)」(宇宙)まで)。よって、現職の公務員であれ、会社員、一般市民いずれの立場であれ、「行政法」を学習する意味がある。本講義は、「行政法」の入門的な知識を受講者に習得・理解させることを目的とする。さらに、実社会に生起する諸問題を、「行政法」的思考法で模索、解決することをも意図する。向学心旺盛な学生諸君の受講を期待する。

第1回講義内容
イントロ―「行政法」を学ぶ前に。「行政法」とはいかなる「法」か(「犬も歩けば行政法に当たる」)。「行政法」を学習する意義について(「規制行政」、「給付行政」)。「行政法」の歴史(ルーツ)、公法・私法二元論について(行政法と民事法の違いは、農地改革(自創法)、租税法律関係と民法177条。公営住宅の利用関係(「公営住宅法」))。公法上の関係に民法など私法の適用がされる場合とは。行政判例百選(第7版)9、11番事件参照のこと。

第2回講義内容
行政法の諸原則―法律による行政の原理、法律の留保(侵害留保説とはどのような考え方か理解する。)、その他の諸原則(信頼保護、平等原則、比例原則)について。自動車の一斉検問の根拠について(百選107番事件)。その他、百選93番事件(福津市産廃最終処分場使用差止請求事件・最判平成21年7月10日)参照。

第3回講義内容
行政組織法概説(行政内部の組織を構成するルールについて学習する。)―行政主体(国、地方公共団体、特殊法人、独立行政法人)、行政機関概念について。国家行政組織法について。国の行政機関。内閣について。権限の委任と代理について。国家行政組織法、内閣法、内閣府設置法については授業中条文をひらけるよう事前に確認しておくこと。

第4回講義内容
行政行為概説〔1〕―行政行為とは(行政主体と私人との間の法律関係を変動させる中心的な行為形式である「行政行為」について学習する。)、行政裁量(伝統的区分)について、日光太郎杉事件(土地収用法に基づく事業認定、収用裁決)、マクリーン事件(入管法)、伊方原発訴訟(原子炉等規制法、原子力規制委員会)など。行政裁量に対する司法統制について(社会観念審査、判断過程審査、手続的審査、裁量権の逸脱・濫用とは。百選73、76、77番事件参照。)。

第5回講義内容
行政行為概説〔2〕―行政行為の諸分類について(「行政行為」の伝統的な分類について学習する。)。附款について(「行政行為」に付随する従たる意思表示について学習する。)。行政行為の効力について(公定力、不可争力など)。

第6回講義内容
行政行為概説〔3〕―行政行為の取消・無効(重大かつ明白な瑕疵、ガントレット事件、無効原因と取消原因)、行政行為の取消・撤回―菊田医師事件(実子あっせん事件。優生保護法〈母体保護法〉)について(「瑕疵」ある「行政行為」の是正方法、「無効」な行政行為の判断基準、職権取消し、「行政行為」の撤回について学習する。百選89、90番事件参照)。

第7回講義内容
行政手続法概説〔1〕―行政が行政活動を行う際に踏まなければならない事前手続きについて学習する(一般法としての「行政手続法」について学習する。)。申請に対する処分手続(私人が法令に基づいて行政庁に許可・認可を求め、これに対して行政庁が諾否の応答をする処分(を行うための手続き)について学ぶ。審査基準、標準処理期間、個人タクシー免許事件、理由付記(旅券発給拒否事件、一級建築士事件))。百選117、120、121番事件参照。「行政手続法」については事前に確認しておくこと。同法第1条の目的規定、同2条の定義規定については事前に目を通しておくこと。

第8回講義内容
行政手続法概説〔2〕―不利益処分手続(行政庁が特定の者、事業者に対して法令に基づき義務を課したり、権利を制限する処分(を行うための手続き)について学習する。聴聞手続、主宰者、聴聞調書・報告書、弁明の機会の付与)、行政指導手続など(品川マンション事件)、届出手続、平成26年改正法(処分等の求め、行政指導の中止ないし発動の求め)についてなど。百選124番事件参照。

第9回講義内容
行政救済法概説―行政救済法総説(違法な行政活動によって権利利益の侵害を受けた私人の救済を図るための仕組みについて学習する。)、損失補償について(公共事業の実現の結果、不平等に犠牲を強いられた者に対し、金銭補填をすることで公平のバランスを図るための仕組みを学習する。名取川事件、奈良県ため池条例事件、土地収用法と損失補償など)。正当な補償とは。完全補償説と相当補償説について。百選246、247、251、252番事件参照。

第10回講義内容
国家賠償法概説―違法な行政活動によって私人が被った損害を国や地方公共団体が賠償するための仕組みについて学習する。1条(公権力)責任と2条(営造物)責任について(学校事故、パトカーによる追跡、道路事故(高知落石事故)、水害訴訟〈大東、多摩川水害訴訟〉など)。百選215、216、229、235~238事件参照。「国家賠償法」の条文についてわずか6か条しかないので、すべて目を通しておくこと。

第11回講義内容
行政事件訴訟概説―行政訴訟の訴訟類型について。取消訴訟、処分性、原告適格(訴えの利益)について。義務付け訴訟(申請型、直接型)、差止め訴訟、当事者訴訟、民衆訴訟〈住民訴訟〉について。違法な「(行政庁の)処分」を裁判所を通して是正するための仕組みについて学習する。「行政事件訴訟法」に基づく「抗告訴訟」の諸類型について学習する。「行政事件訴訟法」について授業中ひらけるよう事前に用意しておくこと。

第12回講義内容
期末試験および講義全体の総括。期末試験の範囲や受験方法については、第11回の講義終了後までに予告する予定。 行政不服申立て概説―行政不服審査法について。平成26年改正法について(審査請求、審理員、行政不服審査会)。「行政不服審査法」の条文をひらけるよう事前に用意すること。

その他の学習内容
  ・課題・レポート

成績評価方法

 スクーリング(オンライン講義)にすべて出席したことを前提として期末試験により評価する。欠席は原則として認めない。但し、仕事や病欠などやむを得ない場合は例外を認める。速やかに教員に申告すること。成績評価は期末試験および小レポート課題により行う(それぞれ50パーセントとする)。期末試験の実施方法については追って告知する。また、小レポートについては、諸君の通常のレポート課題の執筆にさらなる負担とならないよう十分配慮する。内容としては、一ヶ月に一度程度とし、それまでの講義内容に関連する課題とする。

テキスト(教科書)※教科書は変更となる可能性がございます。

プリントを適宜配布する
授業時に授業内容に関するレジュメおよび関連資料を毎回配付する(予定)。

参考文献

『行政法〔第6版〕』/櫻井敬子・橋本博之 弘文堂 2019年
『基本行政法〔第3版〕』/中原茂樹 日本評論社 2018年
『行政法概説Ⅰ 行政法総論〔第7版〕』/宇賀克也 有斐閣 2020年
『行政法概説Ⅱ 行政救済法〔第6版〕』/宇賀克也 有斐閣 2015年
『行政法要論〔全訂第7版補訂2版〕』/原田尚彦 学陽書房 2012年
『行政法総論講義〔第4版補訂版〕』/芝池義一 有斐閣 2006年
『行政法判例百選Ⅰ〔第7版〕(別冊ジュリスト235)』/宇賀克也他編 有斐閣 2017年
『行政法判例百選Ⅱ〔第7版〕(別冊ジュリスト236)』/宇賀克也他編 有斐閣 2017年

受講上の要望、または受講上の前提条件

 「行政法」は「法律学」の中では、応用科目に属する。そのため、「憲法」、「民法」、「刑法」といった基幹的な科目を履修中であることが望ましい。また、行政訴訟との関連では、「民事訴訟法」も履修中であることも望ましい。昨年度は、経済学部の諸君の履修者が複数人いらした。また、在籍一年目の諸君も多くいらした。よって、履修者の学習状況に応じて「法学」の基礎的な内容も交える場合もある。
 とかく一方的になりがちな講義であるが、諸君に適宜質問するなどして、双方向的な授業となるように努めたい。ご協力願う。昨年度は、Zoomを用いて、期末試験も含め、全講義をオンラインのリアルタイム形式で行った。時間的な制約はあったものの、学生諸君と質疑応答の時間を設けられたことは好評であった。また、東京からは遠方の地域に居住する諸君の履修者も見られた。オンライン講義ならではの傾向と言える。通学時間を費やすことなく、体力的に余裕ができたとの声もあった。本年度は通常の対面講義かオンラインか現時点では未定である。いずれにしても、諸君にはしっかりと学修に取り組んで頂きたい。 
 「行政法」自体学習する範囲・対象が広いので、毎回受講後の復習は必要不可欠である。また、担当者が事前に予習を課した内容については、必ず予習しておくこと(事前に配布した判例の事実の概要および判旨の箇所について目を通しておくこと。本年度から該当する行政判例百選の事件番号を講義内容の箇所に記載した。コピーで構わないので、事前に入手すること。)。

 昨年度の夜間スクーリングは、上述の通りオンライン授業となった。オンラインとなった場合の授業の進め方について。例年は、初回の講義時に授業内容全体のレジュメを一括して配付している。オンラインでは、クラウド型のオンラインストレージサービスを通して毎回の講義内容のレジュメを配付する。wordで作成した資料をpdfに変換して配付する。説明はZoomによる。ミィーティングIDとパスワードは事前に予告する。説明は、パワーポイントのスライドで進めていく。講義担当者による説明で一方的にならないよう、適宜諸君に質問や考える時間を与える。

 授業の開始は定刻とする。なお、授業に出席できなかった諸君のための対応は現時点では未定である。極力、リアルタイムでの出席を願う。