慶應義塾大学通信教育部シラバス

科目名
倫理学(専門)
担当教員名
吉田 修馬
科目設置 文学部専門教育科目 授業形態 夏期スクーリング
科目種別・類 第1類 単位 2
キャンパス 日吉 共通開講学部 経済学部、法学部でも開講する。
設置年度 2023 授業コード 52305

授業科目の内容

 「倫理」とは、もともとは、人間がよく生きる上で大切にすべき物事のことであり、人間が社会の中で守るべきルールのことです。倫理には、大ざっぱに言うと、「人間の理想の生き方」、「人間が社会で守るべきルール」、「善悪や正不正の判断基準」という三つの意味があります。「倫理学」とは、そのような倫理について論じる哲学の一分野です。「哲学」とは、物事(特に世界や人生)について自由に理性的に、根本的に考える学問です。端的には、哲学は物事をつきつめて考える学問です。そこで、さしあたり倫理学とは、人間の生き方、社会のあり方、善悪や正不正の判断基準について、つきつめて考える学問のことです(柘植尚則『プレップ倫理学 増補版』弘文堂、2021年、1-16頁を参照)。
 本講義では、(1) 倫理学的な問いの立て方や議論の進め方を「理解」すること、(2) 西洋倫理学史上の代表的な学説や理論の意義や難点について「比較・検討」すること、(3) それらの検討を通じて、倫理学的な問いについて自ら論理的に「思考」し、自分の考えとその理由や根拠を筋道を立てて「表現」すること、この三点を目標にして、西洋倫理学史における代表的な思想家が何を問い、その問いとどう向き合ってきたのかを概観していきます。
 私たちが人生や社会に関して直面している課題の中には、自分自身がかかわっているからこそ、気がつきにくいものや取り組みづらいものもあります。そういった課題を認識しそれに取り組む上で、倫理学史上の議論を手がかりにできることがあります。本講義では、倫理学史上の議論を、言わば私たちを映し出す鏡にすることで、人間や社会や道徳について、より幅広い視点から捉え、より根本的に考え、それに対する自分の見解をより明瞭に示すことができるようになることを目指します。
 なお、指定教科書は要点を絞って簡明に書かれていますので、授業では指定教科書をある程度まで理解していることを前提に、より専門的・発展的な内容も取り上げます。

第1回講義内容
イントロダクション

第2回講義内容
プラトンとアリストテレス

第3回講義内容
デカルトとホッブズ

第4回講義内容
ヒュームとスミス

第5回講義内容
モンテスキューとルソー

第6回講義内容
カントとヘーゲル

第7回講義内容
ミルとベルクソン

第8回講義内容
マルクスとニーチェ

第9回講義内容
サルトルとフーコー

第10回講義内容
ウェーバーとハーバーマス

第11回講義内容
ロールズとセン

第12回講義内容
試験・総括

その他の学習内容
  ・課題・レポート
  ・・各回、指定教科書の予習、授業内容の復習を行ってください。 ・第2回・第4回・第6回・第8回・第10回の最後に小レポートの設問を提示します。次の回の開始時に答案を提出してください。

成績評価方法

・第12回の授業時間内に実施する授業内試験に、小レポートの提出等の授業への参加度を加味して行います。
・第2回・第4回・第6回・第8回・第10回で設問を提示し、次の回で設問に対する小レポートの提出を求めます。
・授業内試験や小レポートでは、設問に対する自分の見解とその理由や根拠を、授業内容を踏まえて筋道を立てて論じてください。

テキスト(教科書)※教科書は変更となる可能性がございます。

入門・倫理学の歴史――24人の思想家(第1版)/柘植尚則編著 梓出版社 2016

プリントを適宜配布する
指定教科書を補うプリントを配布します。

受講上の要望、または受講上の前提条件

(1) 予習と復習、課題と講評
・予習として、各回に学習する指定教科書の該当箇所を事前に通読してください(約60分程度)。各回の予習箇所は以下の通りです。
 第2回:第1章・第2章、第3回:第5章・第6章、第4回:第8章・第10章、第5回:第9章、第6回:第11章・第12章、第7回:第13章・第16章、第8回:第14章・第15章、第9回:第18章・第19章、第10回:第21章、第11回:第23章・第24章
・復習として、小レポートを作成してください。また、各回に学んだ内容を指定教科書やプリントをもとに整理してください(約60分程度)。
・小レポートの回収後に、小レポートに関する解説・講評を行います。第12回の試験実施後に、総合的な解説・講評を行います。

(2) 受講上の注意点
・受講者によるPCの持参を前提とする授業ではありません。
・他の受講者に迷惑をかける行為、講義を妨げる行為は厳禁です。あまりに悪質な場合は、退出を求めることもあります。
・あなたにとって繊細な問題を扱うかもしれません。ご了承ください。
・倫理学に関心があり、主体的に学習するかたを歓迎します。人間や社会は多様で複雑ですから、それらをめぐる哲学・倫理学も単純明快というわけにいきません。また、哲学・倫理学は概念や論理を用いて丹念に思考する営みですので、安易な「わかりやすさ」を期待しないでください。
・様々な学説や議論を批判的に検討しますが、特定の価値や判断を強要したり、否定したりする意図はありません。ただし、趣味や価値観は「人それぞれ」ですが、倫理学は学問ですから「人それぞれですね」では終わりません。おそらく単独で完璧な理論はありませんが、状況や場面によっては、何らかの理論がより有効になる場合があります。この科目では、倫理学における問いの立て方、議論の進め方を学び、様々な学説や理論の利点や欠点を比較検討しますが、単に様々な議論が存在し、どの理論にも難点があるといった知識を習得するだけでなく、問題の背景や構造を見極める理解力や判断力と、その長所や短所を踏まえた上で理論や概念を自ら使いこなす思考力や表現力を養うことを目指します。
・倫理学の議論では、初等数学のように一義的な正解が決まるわけではありませんが、議論の正しさ・確からしさの程度には違いがあります。答えが簡単には見つからない問題について、「考え方や価値観は人それぞれだ」で終わるのではなく、粘り強く、かつ柔軟に考えることを厭わないかたの受講を期待します。授業担当者も、答えが簡単には見つからないことを前提に、それでも考えを進める手がかりとなる「枠組み」や「筋道」の材料を提供するように努めます。というのも、哲学において重要なのは、結論よりも、「問い」の鋭さ・深さ・広がりであり、結論に至るまでの「論証」の客観性や整合性や緻密さだからです。