科目名 | |||
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日米比較文化論 | |||
担当教員名 | |||
宇沢 美子 | |||
科目設置 | 文学部専門教育科目 | 授業形態 | 夏期スクーリング |
科目種別・類 | 第3類 | 単位 | 2 |
キャンパス | 日吉 | 共通開講学部 | - |
設置年度 | 2023 | 授業コード | 52349 |
授業の到達目標及びテーマ:明治以降の日米英間で培われた文化・文学上の交流について考察する講義科目です。日本文化・文学への憧憬、参照、転移、敵対、影響関係を孕む英米文学・文化を、具体的作品解釈を通じて検討していきます。
授業の概要:日米英の文化・文学交流史ーー講義で扱うテクストについては 入手できるURL情報ないしはpdfファイルを提供します。全12回の授業で、毎回の授業において提示される課題に答えるレスポンス・ペーパー(B5 0.5−1頁ほど)を、授業当日の夜10時までに、(後日お知らせする)指定のGoogle Form で提出してください。この毎回のレスポンス・ペーパーは、授業で扱った諸テクストに目を通した上で、自分なりの考えを講義へのレスポンスとして提出する、ということで、授業内容の単なる繰り返しのみのレスポンスは避けるようお願いします。また最終日にはレポート形式の試験を課します。こちらの最終レポートに関しては、各自の「日米比較文化論」を自ら検討するテクストを選び、調べ、論じるという内容のレポートで(A4 3−5枚ほど))を予定しています。講義を受けながら、自分の興味関心がどこにあるのかを考えていくとよいでしょう。
第1回講義内容
海を渡った「古き」日本の物語ー翻案と検閲
明治期の日本は大量の西洋の文献を翻訳・翻案しましたが、逆に日本の文学・文化・思想もまた英語他の外国語に大量に翻訳・翻案されていきました。一つの文化が、外国語で語り直される過程のなかで、おのずと誤訳も誤読も誤解も多分にでてくることになり、翻訳翻案作業は異文化への置き換えという以上のものが含まれることになりました。第1回めの講義では特に英国外交官アルジャーノン・フリーマン=ミットフォードの日本紹介アンソロジー(Tales of Old Japan)を中心に、ごく初期の頃の翻訳・翻案事情を探ります。
第2回講義内容
英国のオペレッタからみる幻想の日本像を探る
西欧の日本幻想は、ジャポニズム(国によってはジャポニスム、ジャパニズム、ジャポネズリー、ジャパネスク)と呼ばれた日本趣味のなかで培われました。そこで披瀝されたOld Japan は往々に空想性を帯びていきました。明治期日本は福澤諭吉の言葉でいえば「脱亜入欧」路線をとり、国内では古い封建制日本の歴史を切り捨て近代化=西欧化を推し進める一方で、海外の需要にあわせ、古き良き日本ののイメージを利用して外貨獲得に励みました。その古き日本を代表する通俗的イメージが「侍」であり、「芸者」でした。芸者が登場する文学、演劇作品、特に英国で流行ったオペレッタ「ゲイシャ」を中心に、このコレクターズ・アイテムとなったゲイシャとはなんだったのか、を考察していきます。
第3回講義内容
ジャポニズム恋愛小説ー国境を越える綺麗な恋愛(本)について
悲恋な日本小説の原点ともいうべきジョン・ルーサー・ロング原作の『蝶々夫人』からはじめ、短編から長編へ、そしてベラスコにより演劇作品化され、プッチーニのオペラへと10年未満のうちに変容をとげた作品を検討します。さらに今回は、この蝶々夫人に触発されながらも「新しい女(The New Woman)」へと明治日本女性のイメージを刷新した同時代中国系カナダ人作家Onoto Watannaの恋愛小説とその本の作りについても、振り返りたいと思います。古い女と新しい女、日本人女性像がどのようにこのジャポニズム幻想のなかで可能性を羽ばたかせたのか。
第4回講義内容
ヨネ・ノグチ(野口米次郎)の日本版新しい女の創造
ワタンナと同時に、アメリカで活躍した米国産の英語で詩を書く「日本人詩人」ヨネ•ノグチの足跡をたどります。彼は通俗的なジャポニズムう小説や演劇に批判的でした。特にワタンナへの批判を込めて彼が創造した日本版新しい女「朝顔嬢 Miss Morning Glory」が意味していたものとは何だったのかを考えます。
第5回講義内容
ヨネ・ノグチの文化翻訳・翻案の仕事を考える。
19世紀末のアメリカ西海岸文壇に英語で詩を書く日本人詩人として颯爽とデビューしたノグチ。10年あまりの歳月ののち日本に帰国し、その後は慶應義塾の英文科で教鞭をとるかたわら、自作品の創作の他、日本と英米を繋ぐ翻訳翻案作品を多数執筆しました。第5回目の講義では、その具体的な文化翻訳・翻案作品を紹介しながら、その意図、工夫、意味について検討します。彼の翻訳翻案作品からみえてくるノグチの日本文化・文学論(ジャポニズム)はどのように変容したのか。1920年代の英米モダニズム詩学と1930、40年代の日本のナショナリズムを彼のジャポニズムはいかに繋いだのか、といった点について具体的に掘り下げようと思います。
第6回講義内容
笑と越境、ウォラス・アーウィンの異人種装ハシムラ東郷コラム
第6回は前回取り扱ったノグチの同時代人Wallace Irwin の異人種装新聞コラムニスト「Hashimura Togo (ハシムラ東郷)」の色眼鏡世界を探索します。この謎多きフェイクな「在米日系人コラムニスト」をひもとくことで、トランスナショナルな文化交渉の一つの潮流を確認します。その笑い(笑われる世界)のなかに、「滑稽」の糖衣をまぶされた辛口の社会批評があるというのがわたしの意見です。
第7回講義内容
ハシムラ東郷と同時代日本人たちー田口卯吉、早川雪洲、谷譲次のめりけん・じゃっぷ他。
黄禍論、映画、文学、イラストといったテーマやメディアのなかで、ハシムラ東郷のそっくりさん日本人を探訪します。この回の焦点となるのは、東郷コラムと現実の日本人の邂逅です。差別感がより濃厚に出やすい視覚イメージに注視することで、文字テクストとのズレも射程に入ると思います。
第8回講義内容
黄色い「黒子」からみる前衛と伝統ーーウィリアム・フォークナーの詩劇『操り人形(The Marionettes)』 (1920;1977)とG. C. ヘーゼルトン&ハリー・ベンリモ共作『黄色い上着(The Yellow Jacket)』(1912)の比較検討
第8回は日本ではなく中国のイメージに焦点をうつします。フォークナーの詩劇からはじめ、ベンリモの『黄色い上着』へ遡り、ワイルダーのOur Town(1938)を経由して、幻想のアジア演劇(もどき)とメタシアター概念が、The Property Manという特異なフィクションのなかの覚醒者を通して繋がることをみてゆきます。
第9回講義内容
容赦なき人種戦 ーー第二次大戦時のハリウッドvs桃太郎映画
第9回は第二次世界大戦時につくられたアメリカの対日プロパガンダ映像について考察を加えます。戦争プロパガンダはあらゆるメディアを登用して作られました。ポスター、アニメ、パンフレット、本、映画、ラジオ番組、新聞雑誌等が戦争協力しました。今日の時点から振り返ってそれらのプロパガンダ作品を見直すことで、そこに用いられた人種戦のレトリックを理解します。ディズニーのアニメ映画やフランク・カプラのKnow Your Enemy Japan 他のジャンルの違うプロパガンダを検討した上、日本のアニメ戦の守護神 桃太郎についても考察します。小さな映像作品をできるだけたくさんみてみよう、という意識で臨みます。
第10回講義内容
岡倉覚三とボストン美術館―消えた「日本庭園」の法隆寺表象の意味を模索する
前回は戦争論でしたが、今回は少し落ち着いて美術館という素材を使い、トランスナショナル・アメリカ研究をしてみようと思います。表題にある法隆寺は、日本最古の仏教建築として世界遺産にもなりましたが、この法隆寺にちなんだ場所がかつてボストン美術kなの西ウィング(中国・日本美術部門)の中央に置かれていたという事実を知る人は少ないと思います。が実際それはありました。しかもその空間は1909年11月にボストン美術館が現在建っているハンティントン通りに移築された当時、そこが美術館が誇る「ウリ」だった場所でもあったのです。それがThe Japanese court(日本境内)でした。この場所を誰がどのような目的でどんな風に建築し、そしてやがて消失したのか。今は歴史のなかに埋没してしまったこの日本境内の歴史的意義を発掘し、問い直します。
第11回講義内容
建築・美術のジャポニズムーー建築家ラルフ・アダムズ・クラムと岡倉覚三の手がけた「日本建築」
今回は前回のボストン美術館論を受けて、この美術館ゆかりの二人のジャポニズム「理論家」たちが残した日本美術・建築をめぐる歴史観を検討したいと思います。クラムの(日本)帝国議会議事堂案、アーサー・ナップ邸、岡倉の鳳凰殿(1893年シカゴ万博の日本館、平等院鳳凰堂のレプリカ)とその美術館としての内装展示などについて、建築物(写真)とそれについての彼らの持論を参照しながら、比較検証していきます。
第12回講義内容
試験と総括
講義時間の冒頭では、今回の全講義を振り返り総括し、質疑応答の時間を設けます。その後、レポート形式の試験(50分)を行います。資料の持ち込みは自由ですが通信機能のついた電子機器は持ち込み不可といたします。他人の論の剽窃となることを避けるため、レポートの最後には必ず引用参照文献表を提示し、レポート本文中には引用符ならびに参照した原典表示を記すことが必要です。(つまり第三者が読んで、どの原典のどこを引用したかを追跡できるようにしておく必要がある、ということです)。
その他の学習内容
・課題・レポート
・kcc-channel等で通知するURL上の資料をできるだけ予習し授業に出席してください。要するに質問をもって授業に臨んでほしいということです。
レスポンスペーパーおよび論述試験による総合評価。
各回の授業資料に、インターネット上で読める、視聴できるテクストや映像のURLを提示してあります。
また各回の授業資料はkcc-channelを通してそのURLを提示します。
ハシムラ東郷―イエローフェイスのアメリカ異人伝/宇沢美子 東京大学出版会 2008
The Great Wave: Gilded Age Misfits, Japanese Eccentrics, and the Opening of Old Japan/Christopher Benfey Random House 2004
google drive上に用意する授業資料に授業時間前24時間内にアクセスしてください(1日前から読めますということです)。google drive 上の資料は閲覧のみ可能です。毎回の講義に関しては、授業資料を読み、そこに示されているレファレンスに自分で目を通した上で、授業にのぞみ、その後にレスポンスペーパー(B5版0.5ー1ページ程度を量の上限とする)を書き、google form上で提出することが求められます。これらの提出物(毎回のレスポンスペーパー)に加え最終講義の時間帯においてなされるレポート形式の試験によって、成績は総合的に評価します。なお、毎回のレスポンスペーパー用のgoogle form には、質問コーナーを設けますので、質問がある方はそちらを積極的に使ってください。またuzawa@keio.jpにおいても質問を随時受け付けますが、回答はgoogle form上でまとめて行うことにいたします。