科目名 | |||
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ドイツ語学文学 | |||
担当教員名 | |||
川島 建太郎 | |||
科目設置 | 文学部専門教育科目 | 授業形態 | 夏期スクーリング |
科目種別・類 | 第3類 | 単位 | 2 |
キャンパス | 日吉 | 共通開講学部 | - |
設置年度 | 2023 | 授業コード | 52359 |
法と文学は、大学では別々に学ばれているけれども、じつは古代よりぬきさしならぬ深いかかわりがある。ミシェル・フーコーは、ソフォクレスによるギリシャ悲劇の傑作『オイディプス王』を、古代ギリシャの司法制度の記録として読み解いた。演劇と裁判はともに、言葉をメディアとして、それまで隠されていた真実を明るみに出そうとするという点で共通しているのである。
ドイツ文学では、ハインリヒ・フォン・クライストの喜劇『壊れ瓶』が『オイディプス王』のパロディーである。ゲオルク・ビューヒナーの戯曲『ヴォイツェック』は裁判資料を土台にして書かれた。裁判官でもあったE. T. A. ホフマンは、ロマン主義時代の中心的なモティーフであった「狂気」の描写に、裁判資料の精神鑑定書を参考にしていた。弁護士でもあるフェルディナント・フォン・シーラッハの『コリーニ事件』は裁判小説として、戦後ドイツにおいてナチ犯罪者を時効にするための法律が意図的につくられていた疑いを告発した。このように文学は、さまざまな形で法とかかわっている。
オイゲン・ヴォールハウプターは研究書『詩人法律家』で、法学を学んだ詩人や作家が多いことを指摘した。ドイツ文学では、上記のクライストやホフマンのほか、ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテや、フランツ・カフカなどが重要な「詩人法律家」である。ゲーテが帝国最高法院で研修していた時期に書いた『若きヴェルターの悩み』は、一八世紀ドイツの法制史の記録として読み解くことができる。大学で法学を修め、法学博士の学位を持っていたカフカは「流刑地にて」や『訴訟』などさまざまな作品で法のテーマを取り上げた。カフカ文学の中心的な問題は、法と正義の乖離である。これはヴァルター・ベンヤミンが「暴力批判論」で指摘し、脱構築の哲学者ジャック・デリダ『法の力』やジョルジョ・アガンベン『ホモ・サケル—主権権力と剥き出しの生』が引きついだ問題系にほかならない。つまりカフカの文学は、現代哲学で中心的に取り上げられているアクチュアルな問いを先駆的に描いているのである。
本講義では、これまでにタイトルを挙げた作品のほか、ゲーテ『ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン』、クライスト『ミヒャエル・コールハース』、インゲボルク・バッハマン「一人のヴィルダームート」、ベルンハルト・シュリンク『朗読者』などもとりあげるつもりでいる。
理論としては、すでにあげた哲学者の著作のほか、メディア理論家コルネリア・フィスマン『司法のメディア』や、法制史家であると同時にラカン派精神分析家でもあるピエール・ルジャンドルによる『ロルティ伍長の犯罪−〈父〉を論じる』などを紹介し、体系的に文学と法のかかわりを考察する。
第1回講義内容
イントロダクション〜ギリシャ悲劇(1)アイスキュロス『エウメニデス』
第2回講義内容
ギリシャ悲劇(2)ソフォクレス『オイディプス王』
第3回講義内容
ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ『ゲッツ・フォン・ベルリヒンゲン』
第4回講義内容
ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテ『若きヴェルターの悩み』
第5回講義内容
ハインリヒ・フォン・クライスト『壊れ瓶』
第6回講義内容
ハインリヒ・フォン・クライスト『ミヒャエル・コールハース』、同『決闘』
第7回講義内容
E.T.A.ホフマン『スキューデリー嬢』
第8回講義内容
ゲオルク・ビューヒナー『ヴォイツェック』
第9回講義内容
フランツ・カフカ『訴訟』
第10回講義内容
インゲボルク・バッハマン「一人のヴィルダームート」、「ウンディーネがゆく」
第11回講義内容
ベルンハルト・シュリンク『朗読者』(1995)、フェルディナント・フォン・シーラッハ『コリーニ事件』(2011)
第12回講義内容
総括
その他の学習内容
・課題・レポート
平常点(40%)と期末試験(60%)で評価します。平常点は毎回の授業についてのリアクションペーパーの提出による評価です。
プリントを適宜配布する
予習として、シラバスにあがっている作家や作品について、ネットや辞典などをもちいてあらかじめ調べておくと、講義内容を理解しやすくなります。また、取り上げる予定の作品を、一つでも二つでもよいので、読んでみることをお勧めします。