慶應義塾大学通信教育部シラバス

科目名
哲学(専門)
担当教員名
柏端 達也/髙取 正大
科目設置 文学部専門教育科目 授業形態 秋期週末スクーリング
科目種別・類 第1類 単位 2
キャンパス 三田 共通開講学部 経済学部、法学部でも開講する。
設置年度 2023 授業コード 52361

授業科目の内容

 われわれはいかにして何かを知ることができるのか、ひいては、そもそも何かを知っているとはどのようなことなのか、という問いは、古代ギリシャの時代から現代に至るまで、哲学の最も主要な問題の一つであり続けています。この問いはまた、われわれが知っていると言えることは本当は(ほぼ)何もないのではないか、という疑いの問題──懐疑論──とも分かちがたく結びついています。
 本授業では、「知識と懐疑」というテーマのもと、これらの問題を巡って、主に現代哲学のなかでどのような考察がなされているかということを学習します。
 柏端の担当部分では、導入として、常識および哲学における「懐疑」や「懐疑論」の意味や位置づけを確認します。そして「知識」や「相対主義」といった他の近接テーマとの一般的な関係を見ます。
 高取の担当部分では、現代の分析哲学における認識論の展開について、主要な話題のいくつかを具体的に解説します。すなわち、知識の古典的定義とそれに対して提起されたゲティア問題、古典的定義に対する不満を通じて登場した認識的外在主義の潮流、近年注目されている徳認識論の展開といった、知識概念の分析における主要なトピックを扱います。そしてそれらを踏まえたうえで、終盤の回では懐疑論の問題を改めて定式化し、それに対する応答としてどんな議論が可能かということを検討します。

第1回講義内容
導入:いわゆる「知識」について

第2回講義内容
懐疑の営みと懐疑主義

第3回講義内容
懐疑主義と相対主義

第4回講義内容
知識の古典的定義とゲティア問題

第5回講義内容
正当化の構造

第6回講義内容
認識論的外在主義と認識論的内在主義1

第7回講義内容
認識論的外在主義と認識論的内在主義2

第8回講義内容
徳認識論1

第9回講義内容
徳認識論2

第10回講義内容
懐疑論とその応答1

第11回講義内容
懐疑論とその応答2

第12回講義内容
総括

その他の学習内容
  ・小テスト

成績評価方法

最終日にテストを実施します。またそれ以前に、期間内に理解確認のための小テストを何回か実施しますが、それらも成績評価の対象となります。

テキスト(教科書)※教科書は変更となる可能性がございます。

プリントを適宜配布する

参考文献

よくわかる哲学 懐疑論──パラドクスから生き方へ/ダンカン・プリチャード(横路佳幸 訳) 岩波書店 2023
知識とは何だろうか──認識論入門/ダンカン・プリチャード(笠木雅史 訳) 勁草書房 2022
現代認識論入門──ゲティア問題から徳認識論まで/上枝美典 勁草書房 2020
よくわかる哲学・思想(やわらかアカデミズム・〈わかる〉シリーズ)/納富信留・檜垣立哉・柏端達也 編 ミネルヴァ書房 2019
知識の哲学/戸田山和久 産業図書 2002

受講上の要望、または受講上の前提条件

 受講にあたり哲学の予備知識はとくに必要ありません。ただし講義ではそれなりに専門的なところまで話しますし、哲学の話には正直すぐに飲み込めないものも多いですから、理解できなかったところがあれば遠慮せず授業内でも積極的に質問してください。質問を歓迎します。
 予備知識は必要ないと書きましたが、上に挙げた参考文献はどれも授業テーマの理解に役立ちます。懐疑論について哲学的に考えることの重要性は、プリチャードの『懐疑論──パラドクスから生き方へ』に分かりやすく説得的に書かれています。古代からの伝統的な懐疑論(ピュロン主義など)や、相対主義との関係など一般的な事柄については、事典『よくわかる哲学・思想』の関連項目をご覧ください。また、認識論関係の邦語の専門良書が近年続々と出版されていて、とりわけプリチャードのもう一冊『知識とは何だろうか』と、上枝美典『現代認識論入門』は、この授業のテーマについてより深く専門的なところまで学びたい人にとっては最適です。知識論の古典的な教科書としては、戸田山和久『知識の哲学』が読みやすくてお勧めです。