慶應義塾大学通信教育部シラバス

科目名
社会思想史
科目設置 経済学部専門教育科目 授業形態 テキスト科目
科目種別・類 単位 4
キャンパス - 共通開講学部 -
設置年度 2024 授業コード T0EB100101

講義要綱

本科目では、近現代の社会思想の歴史的展開を、「自由と公共の相克」という視点から統一的に概観する。グローバル資本主義・格差拡大・ポピュリズムといった現代の諸問題は、近代社会の原理から生じてきたものであり、その背後には、マキアヴェリからロールズにいたる西欧社会思想500年の展開と、その根底をつらぬく「自由と公共の相克」という中心的な論点が存在している。重要な点は、近代の思想家たちが、現代の細分化された社会科学分野を前提にすることなく、各自が生きた時代と社会を、哲学的視点(人間本性の探求)と、社会科学的視点(政治・経済システムの探求)という二つの眼で探求してきたということである。同時に、彼らの思考は、過去から受け継いだ思想伝統を継承しつつ、それを新たな時代のなかで大胆に革新することによって生まれたものである。この伝統と革新の絡まり合いを、「自由と公共の相克」という論点の下に跡づけることが本科目の狙いである。指定教科書の構成は次の通りである。

 序章 「社会思想」とは何か
 第1章 マキアヴェリの社会思想
 第2章 宗教改革の社会思想
 第3章 古典的「社会契約」思想の展開
 第4章 啓蒙思想と文明社会論の展開
 第5章 ルソーの文明批判と人民主権論
 第6章 スミスにおける経済学の成立
 第7章 「哲学的急進主義」の社会思想-「保守」から「改革」へ
 第8章 近代自由主義の批判と継承-後進国における「自由」
 第9章 マルクスの資本主義批判
 第10章 ミルにおける文明社会論の再建
 第11章 西欧文明の危機とヴェーバー
 第12章 「全体主義」批判の社会思想-フランクフルト学派とケインズ、ハイエク
 第13章 現代「リベラリズム」の諸潮流
 終章 社会思想の歴史から何を学ぶか

テキスト

坂本達哉『社会思想の歴史─マキアヴェリからロールズまで─』名古屋大学出版会、2014年

テキストの読み方

履修者には、テキストを一章ずつ読み進めていく中で、過去の思想家との学問的対話を楽しみ、現代社会における「自由と公共の相克」という論点を自分なりに考え直すことが期待されている。テキストと参考文献を読破し、レポート課題と試験をパスするには、何よりも履修者自身の積極的な問題関心が不可欠である。自分が生きる時代と社会の問題を見つめながら、そのヒントを偉大な思想家たちの言説に見いだそうとする主体的な問題意識が要求される。

履修上の注意

本科目は経済学部の専門科目としては対象とする範囲が幅広い。狭義の経済学はもちろん、哲学、思想、歴史、文化、芸術など、関連諸分野への幅広い関心がもとめられる。

関連科目

総合教育科目では、哲学、歴史(西洋史)、政治学、社会学などが関連深く、経済学部専門科目では、経済原論(ミクロ経済学)、経済原論(マクロ経済学)、経済史、西洋経済史(近世)などが重要であるが、いずれも本科目の履修条件というわけではない。これらの科目を本科目と平行して学ぶことにより、本科目の理解は大いに助けられるであろう。

成績評価方法

科目試験による。

参考文献

本テキストは類書のなかでも参考文献の充実を特徴のひとつとしている。履修者は各章ごとに示された数多くの文献から、自分の関心に近いものを選び、慶應義塾図書館をフル活用しながら、できる限り眼を通すことが望ましい。テキストの全体像を理解する上で、特に参考となる類書としては、次のものがある。水田洋『新稿 社会思想小史』ミネルヴァ書房、2006年。R・L・ハイルブローナー『入門経済思想史 世俗の思想家たち』ちくま学芸文庫、2001年。川出良枝・山岡龍一『西洋政治思想史』岩波書店、2012年。

レポート作成上の注意

レポート作成の技術的側面については補助教材に示された基本的内容や参考文献を十分に踏まえること(レポート作成については、戸田山和久『新版 論文の教室:レポートから卒論まで』NHK出版、2012年も読むこと)。単にテキストの内容を要約しただけのレポートは評価されない。課された「問題」の意味を自分がどのように理解したかを示した上で、論述内容に自分自身の問題関心や思考の跡が分かるような内容が望まれる。テキスト以外にレポート作成上とくに参考とした文献があれば、それ(ら)を明示すること。