慶應義塾大学通信教育部シラバス

科目名
新・道徳教育論
科目設置 教職科目 授業形態 テキスト科目
科目種別・類 単位 2
キャンパス - 共通開講学部 -
設置年度 2024 授業コード T0F0003303

講義要綱

本科目は、中学校教育職員免許状取得を念頭に、学校の教育活動全体を通じて行うものとされる道徳教育について多角的に考察することを目的とします。
道徳教育が抱える本質的な問題は、実は古来より哲学・倫理学が繰り返し問うてきた問題であり、公式的な解答が得られるものではありません。一方で、教科化に即して改訂されたはずの現行学習指導要領の内容項目の中には、それ自体すでに生徒たちの思考や感情、ないし行動を必要以上に制限するのではないか、と思われるものが少なくありません。文部科学省からは、内容項目の習得を目指して執筆された教科書の使用は絶対ではない、という見解が示されていますが、同省教科書調査官の講演では教科書に準拠した授業が強く推奨されたりもしています。
こうした複雑な状況において道徳教育を実施するに当たっては、単に学習指導要領に追従しようとするよりむしろ、学習指導要領を批判的に相対化し客観視することが求められます。この相対化をするに際して、受講生の皆さんは自分自身にとって当たり前である「道徳」そのものを一旦自分自身から引き離して俯瞰視する作業を欠くことができません。
教科化された「道徳」の授業が抱える問題は、どうしたら道徳の授業がうまくできるか、という教師側のノウハウの問題ではありません。テキストは、道徳そのものの俯瞰視からさらに展開して、道徳教育の市民教育への発展的解消を提唱しています。受講生にはテキストを足掛かりに、道徳教育についてぜひ積極的かつ創造的に学んでいただきたいと思います。テキストの構成は以下の通りです。

 はじめに
第Ⅰ部 ほんとうの道徳
 第1章 ルールと道徳
 第2章 道徳とは何か?
第Ⅱ部 ほんとうの道徳教育
 第3章 哲学対話
 第4章 学校・ルールをつくり合う道徳教育
 第5章 プロジェクトとしての道徳教育
第Ⅲ部 市民教育への道
 第6章 来るべき市民教育のために

テキスト

苫野一徳『ほんとうの道徳』トランスビュー、2019年
平成27年度3月改定版中学校学習指導要領第3章「特別の教科道徳」、および中学校学習指導要領解説特別の教科道徳篇(いずれも文科省ホームページからPDFファイルをダウンロードして入手できます。)

テキストの読み方

全体をざっと一読した後、レポート課題等に直接関係する個所を重点的に読んでください。
また、このテキストは実践の手引きにもなっています。特に教職に就く準備をしている受講生は、テキストに記されている発想法や考え方を自分で試したり、家族や友人を誘い合わせて対話を試してみることをお勧めします。
また、テキスト内の脚注で紹介されている書物も読んで考察を深めることもいいでしょう。

履修上の注意

レポート、科目試験共にテキストの内容理解が不十分な場合、たとえ他の参考文献を読み込んでいたとしても不合格にいたします。

成績評価方法

科目試験によります。

参考文献

テキスト以外に、特別の教科「道徳」について批判的かつ建設的な考察を深めることができる書物を挙げておきます。
松下良平『道徳教育はホントに道徳的か?』日本図書センター、2011年
宇佐美寛『「道徳」授業に何ができるか(教育新書)』明治図書、1989年
堀越英美『不道徳お母さん講座 私たちはなぜ母性と自己犠牲に感動するのか』河出書房新社、2018年
杉原里美『掃除で心は磨けるのか』筑摩書房、2019年
杉本遼, 藤井基貴, 髙宮正貴, 町田晃大『子どもの問いではじめる!哲学対話の道徳授業』明治図書出版、2023年
功刀俊雄、栁澤有吾『「星野君の二塁打」を読み解く (奈良女子大学文学部〈まほろば〉叢書)』かもがわ出版、2021年
藤川大祐『道徳教育は「いじめ」をなくせるのか 教師が明日からできること』NHK出版、2018年
藤川大祐『道徳授業の迷宮~ゲーミフィケーションで脱出せよ~』学事出版、2018年
木野正一郎『新発想!道徳のアクティブ・ラーニング型授業はこれだ』みくに出版、2016年
生田武志、北村年子『子どもに「ホームレス」をどう伝えるか いじめ・襲撃をなくすために』太郎次郎社エディタス、2013年
島薗進『国家神道と日本人』岩波新書、2010年
ローラント・ヴォルフガング・ヘンケ編集代表『ドイツの道徳教科書 5,6年実践哲学科の価値教育』明石書店、2019年
荒木寿友『学校における対話とコミュニティの形成』三省堂、2013年
浪本勝年ほか編『史料 道徳教育を考える(4改訂版)』 北樹出版 2017年他多数

レポート作成上の注意

テキスト、学習指導要領とその解説編や、参考文献に挙げた書籍をメモを取るなどしながら読み込んで、自らの考えを持ったと自覚できた時点で書き始めてください。
テキスト以外にどのような書籍を参考にしてもよいのですが、教職課程における道徳教育に関する授業の「教科書」として書かれたものには、退屈だったり本質から外れているものも多いです。できれば道徳教育に関する総説的な書物を避け、特定のテーマについて論じた書物を選ぶとよいです。
(道徳教育に関する総説的な書物で有用なのは本科目のテキストおよび、参考文献に挙げた松下良平氏の著作です。)
一般論で言えば、教科化が決定した2015年前後から興味深く読める書物が増えてきているので、参考にしてください。