慶應義塾大学通信教育部シラバス

科目名
芸術(美術)
担当教員名
林 克彦
科目設置 総合教育科目 授業形態 夜間スクーリング
科目種別・類 3分野科目/人文科学分野 単位 2
キャンパス 三田 共通開講学部 -
設置年度 2024 授業コード 12408

授業科目の内容

古代から近現代にかけての西洋美術の様式変遷には一筋の連続性があり、その連続性は、抽象的で観念の表象を旨とする様式と、具象的で現実の再現を志向する様式という両極、すなわち、二つの基本様式の間の絶えざる反動として見ることができます。中世から近世にかけて、西洋美術は、キリスト教の理念を象徴的に表現する形式主義的なものから、しだいに、空間、運動、陰影、印象を重視する内容主義的なものへと変化していきますが、その変化を決定づけたのがイタリアのルネサンス美術に他なりません。16世紀初頭にレオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ラファエッロ等が完成させたいわゆる盛期ルネサンス美術の様式は、その後19世紀まで続く古典的でかつ写実的な近世美術の規範となりました。対するに、15世紀の初期ルネサンス美術の様式は、いまだ中世的な性質を色濃く残しており、先に述べた両極のちょうど中間に位置するものと言えます。その初期ルネサンスを代表する画家の一人が、ピエロ・デッラ・フランチェスカ(1412年頃~1492年)です。ピエロは近世絵画の基本的な特質の一つである合理的な透視絵画空間の作図法を完成させた数学者でもあった反面、彼の作品には、単純な形態、色面的な装飾性、不動性といった、中世絵画に通ずるようなプリミティヴな要素も少なからず認められます。本講義では、このピエロ・デッラ・フランチェスカの諸作品の分析を通じて、西洋近世美術の様式変遷を決定づけたルネサンス美術の主要な造形原理について解説します。

第1回講義内容
美術史学と様式論(形式芸術と内容芸術)

第2回講義内容
古代と中世の美術(イデアとミメーシス)

第3回講義内容
ルネサンスにおける美と優美

第4回講義内容
ルネサンスと遠近法(線遠近法と空気遠近法)

第5回講義内容
ピエロ・デッラ・フランチェスカの遠近法とルネサンスのコンポジション(装飾とタブロー)

第6回講義内容
ピエロ・デッラ・フランチェスカの《聖十字架伝》

第7回講義内容
ルネサンスの壁画連作における物語の描写と構成(姉妹芸術論と詩画優劣比較論)

第8回講義内容
ルネサンスと風景

第9回講義内容
北方絵画とイタリア絵画

第10回講義内容
ピエロ・デッラ・フランチェスカとヴェネツィア絵画

第11回講義内容
ピエロ・デッラ・フランチェスカと近代美術

第12回講義内容
総括(課題の講評)

その他の学習内容
  ・課題・レポート

成績評価方法

出席状況と講義最終日に提出してもらう課題(レポート)の採点による。

テキスト(教科書)※教科書は変更となる可能性がございます。

プリントを適宜配布する

参考文献

『ウィトルーウィウス建築書』/(森田慶一訳) 東海大学出版会 1979
『プリニウスの博物誌 第三巻』/(中野定雄他訳) 雄山閣出版 1986
『絵画術の書』/チェンニーノ・チェンニーニ(辻茂他訳) 岩波書店 1991
『絵画論』/レオン・バッティスタ・アルベルティ(三輪福松訳) 中央公論美術出版 2011
『ヴァザーリの芸術論』/ヴァザーリ研究会編 平凡社 1980
『アレティーノまたは絵画問答』/ロドヴィーコ・ドルチェ(森田義之・越川倫明訳) 中央公論美術出版 2006
『抽象と感情移入』/ウィルヘルム・ヴォリンゲル(草薙正夫訳) 岩波文庫 1953
『美術史の基礎概念』/ハインリヒ・ヴェルフリン(海津忠雄訳) 慶應義塾大学出版会 2000
『〈象徴形式〉としての遠近法』/エルヴィン・パノフスキー(木田元監訳) ちくま学芸文庫 2009
『イタリア絵画史』/ロベルト・ロンギ(和田忠彦他訳) 筑摩書房 1997
『イタリアの美術』/アントニー・ブラント(中森義宗訳) 鹿島出版会 1968
『風景画論』/ケネス・クラーク(佐々木英也訳) ちくま学芸文庫 2007
『原典イタリア・ルネサンス芸術論 上下巻』/池上俊一監修 名古屋大学出版会 2021

受講上の要望、または受講上の前提条件

配付資料や参考文献等の情報を必要に応じて復習すること(90分程度)。講義中多数の図版を提示しますので、作品をよく見るよう心がけてください(講義内容はイタリアのルネサンス美術を中心に古代から近代にかけての西洋美術史全体に及びます)。なお、講義で使用する資料やスライドのデータをネット上で共有する予定です。