慶應義塾大学通信教育部シラバス

科目名
英語(リーディング)J
担当教員名
若澤 佑典
科目設置 総合教育科目 授業形態 夏期スクーリング
科目種別・類 外国語科目/英語 単位 1
キャンパス 日吉 共通開講学部 -
設置年度 2024 授業コード 22405

授業科目の内容

【授業テーマ】
英文リーディングの青空市場:
一口に「英文」と言っても、そのテーマや語り口は多種多様です。例えば、ペンギンの生態を語るネイチャー・ライティング、英米の教育制度を比較する社会学的論考、大英博物館に収蔵された浮世絵を紹介する展示解説などなど、英文はさまざまな「知の世界」への経路を指し示しています。リーディング力の向上とは、語彙や文法理解の涵養のみならず、ことばを介して世界の「森羅万象」に目を向け、そこにある「謎」や「驚異」に気づき、自分なりに「あれこれ考えてみるプロセスが確立される」ことを意味します。本授業では2023年にイギリスで出版された「数の世界史」をめぐるストーリー/文理横断ドキュメンタリーを教材とし、さまざまな知が交差する「現場」に飛び込んでみたいと思います。「数の世界史」を追いかける過程で、古代文明の遺物や発明、近代世界における女性の活躍や異文化接触など、「数」という言葉からは、思いもよらないトピックと遭遇することになります。青空マーケットで、さまざまな屋台をブラブラする人の如く、英文リーディングという「ことばの広場」で、さまざまな出会いを経験してみましょう!

【到達目標】
①英文の構造的理解
与えられた英文を「とりあえず日本語訳してみるのだけど、なんだか意味が判然としない」とか、「文法構造は説明できるのだけど、要約や注釈となると、途端に頭がフリーズしてしまう」といった、もどかしさを感じている学生さんは多いでしょう。英語の文章は、始めから終わりまで「均質なトーン」で書かれているわけではありません。ポップ・ミュージックやドラマと同じように、文章にもそれぞれ「山場/クライマックス」があり、全体を通底する「サビ」のパート、あるいは「キー・フレーズ」が存在します。したがって、英文を漫然と機械的に和訳するのではなく、各文の機能(「当該箇所は文章全体の中で、どんな役割を担っているのか?」)を考えながら読み進め、全体のコアとなる文を探索し、コアとなる文とそれ以外の文の関係を分析することで、リーディングの精度は格段に向上します。各々の文、それぞれの段落の役割に注目し、文章全体の論理的構造、そして語りの骨組みを見抜いていく、「英文の構造的理解」能力を涵養します。

②能動的なリーディング体験
リーディング活動というと、与えられた文章の「情報整理」だったり、教員に「指示された箇所の訳出」だったりと、受動的なものがイメージされがちです。しかし、英文リーディングの最もおもしろいところは、「この英文を通じて、こんなことを思った/連想した/考えた」と、読み手の一人一人が「創造的な思考」や新たな「言語表現・発信」へと誘われるところでしょう。ペア・ワークやグループ・アクティヴィティを通じて、読むことの「協働性」にフォーカスした「学びの場」をつくっていきます。

第1回講義内容
リーディングをめぐる理論と実践 ポイント1:英文にもそれぞれ個性/特徴/表情がある ポイント2:読み手の「わたし」と書き手の「あなた」、その間に橋をかける

第2回講義内容
英文解釈のツボ:やはり「始め」が肝心!(冒頭文の論理とレトリック)

第3回講義内容
英文の世界を「考古学」と紐づける:「始まりの現場」への遡及+モノを読み解く(アフリカで発掘された骨片)

第4回講義内容
英文解釈のツボ:英文のメッセージは、「一つ」に集約される(抽象的主題と具体的事例の関係)

第5回講義内容
英文の世界を「地理」と紐づける:バビロニアってどこですか?(道具を発明・活用する、古代文明の人々)

第6回講義内容
英文解釈のツボ:英文のロジック/ストーリーを、頭の中でイメージできているか?(図表化による整理=ダイアグラム的思考)

第7回講義内容
英文の世界を「世界史」と紐づける:中国の皇帝は、占いがお好き??(占星術と数の文化)

第8回講義内容
英文解釈のツボ:リーディングにおける「躓き体験」の傾向と対策(「難しさ」を要素分解する)

第9回講義内容
英文の世界を「工作」と紐づける:時計はチクタクと、時間を刻む(テクノロジーにおける「数」の展開)

第10回講義内容
英文解釈のツボ:とにもかくにも、英文の最後にたどり着け、そして冒頭に戻って振り返るんだ(リーディングにおける反復/往復の効果)

第11回講義内容
英文の世界を「美術」と結びつける:図像の光彩、写真のつぶやき(かたちの思考と表象文化論)

第12回講義内容
総括 総合知としての「文」学、日常生活へと投げ入れられた「読む」行為 (履修学生によるプロジェクト報告・創作発表を含む)

その他の学習内容
  ・課題・レポート

成績評価方法

①授業内アクティヴィティへの取り組み 50%
②授業に関する事前/事後課題(の提出状況および内容的パフォーマンス) 50%
*本授業は「最終回に筆記試験の一発勝負」で成績評価を行うのではなく、毎回こまめにリーディング課題を出し、その内容について授業内で報告やアクティヴィティを行ってもらうことで、リーディング能力の涵養を目指し、そのプロセスと成果を成績評価の対象とします。事前および事後学習の課題は、本文要約や語彙のマッピング、英文サイトの探索といったオーソドックスなものから、英文から連想するテーマの自由作文(日本語)や、本文内容の挿絵/映像化を考えてみるといった創作的内容・企画発案といった「あたまの体操」も含みます。さまざまな思考プロセス、表現回路、日常生活のなかの手がかりを使いながら、読むという行為が持つポテンシャリティを顕在化させ、学生のみなさん一人一人に身に付けてもらいます。

テキスト(教科書)※教科書は変更となる可能性がございます。

プリントを適宜配布する
Kate Kitagawa and Timothy Revell, The Secret Lives of Numbers: A Global History of Mathematics and Its Unsung Trailblazers (2023)より、通信教育課程の英語授業に適した箇所を抜粋し、コピーを初回授業で配布します。教科書購入の必要はありません。また、テクスト理解に必要な歴史・文化背景については、担当講師が授業内で解説します。各回の事前予習で、英文内容が理解できなくても不安に思わず、その「?」を持って授業にお越しください。

参考文献

プリントを適宜配布する
履修者の興味関心や英語の学習状況に併せて、補助教材を配ったり、参考資料となるものを提示します。三つのポイントから、みなさんの英文リーディングをバックアップできればと思っています。
ポイント1:英文法や語彙など、言語理解に関わるもの
ポイント2:クリティカル・リーディングや文章解釈の技法など、「読む」行為をめぐる理論と実践
ポイント3:英文の背後にある「学問の世界」の広がり、すなわち「知のマップ」(=大学ではどんな学問分野があり、それぞれどんなことを探究し、分野同士でどんなつながりがあるのか)が一望できるもの

☆「数の文化史」や「数と文芸」といったテーマについて、日本語で何か授業前後に読みたければ、以下の2冊がいいスタート地点になると思います。興味がある方は、気になるものを大学図書館で探して、パラパラと眺めてみてください。
①森田真生『数学する身体』東京:新潮社、2015年
②森毅、安野光雅『対談:数学大明神』東京:筑摩書房、2010年
また、分厚い本を手に取って、関連分野の「知的蓄積の重み」を感じたい方には、以下のような書籍もあります。
③Z・アーテシュテイン『数学がいまの数学になるまで』植野義明ほか訳、東京:丸善出版、2018年
④G・レイコフ、R・ヌーニェス『数学の認知科学』植野義明ほか訳、東京:丸善出版、2012年

受講上の要望、または受講上の前提条件

①英語のことば一つ一つに、それぞれ歴史があり、それを使う人々の「生活の息づかい」が隠れています。英文を単なる情報の総体として扱うのではなく、その言葉が躍動する文化・社会と関連付けながら、5~10頁程度のまとまりをもった文章を読み解き、さらには言語表現や創造的応答といったアウトプットへと接続する授業です。おおむね授業前の予習に1~2時間程度、授業後の復習に1~2時間程度が必要になると思われます。また、英文世界の探検には「辞書」が欠かせません。学習時、および授業参加時には、電子辞書(あるいは好みにあわせて紙の辞書)をご持参・ご活用ください。
②せっかく未知の英文を一緒に読むのだから、そこで生まれた感情や思考を「かたちにする」プロセスも、「読むことの一部」なのだと、ぜひ実感してもらいたいです。一方的に教員側で講義をするのではなく、教員と学生、そして履修者同士の相互応答を重視したクラス運営を行います。ペア・ワークやグループ・アクティヴィティを毎回取り入れるので、ぜひ楽しみつつ、クラスメイトとの相互理解を深めながら英文を読んでいきましょう。「こんなことも英語の授業でやるんだ」とビックリされるかもしれませんが、「総合知としての英文リーディング」の名のもとに、さまざまなトピック/活動を「英文読解」に関連付けていきます。
③アウトプット機会が多い授業ですが、みんなの前で発言する際の「とまどい」や、意見が上手くまとまらない際の「沈黙」などを、「創造的な瞬間」として大事にしていきます。必ずしも流暢に話したり、明瞭なプレゼンテーションができなくとも、落ち込まなくて大丈夫です。むしろ、コミュニケーションが苦手な学生さんたちが、自分なりの表現回路、クラスメイトとの協働方法を確立する場になればと思っています。失敗や混沌は、新たな創造に向かうための素材になります。ぜひ臆せず、どんどん、能産的な失敗をして、そこから学んでください。