慶應義塾大学通信教育部シラバス

科目名
文学
科目設置 総合教育科目 授業形態 テキスト科目
科目種別・類 3分野科目/人文科学分野 単位 4
キャンパス - 共通開講学部 -
設置年度 2024 授業コード T0AA000401

講義要綱

【中国文学関係】
 漢詩は、3000年近くという長い歴史を持つ、中国古典文学の中でももっとも中心的な位置を占め続けてきた文学ジャンルです。本講義を通じて、奥深い漢詩の世界に対する理解を深めてもらいたいと思います。
 なお中国の古典文学は、どのジャンルにおいても、いわゆる西欧の文学(literature)の概念とは異なる独自の在り方、発展・変化の過程を有しています。そうした状況を、中国の文化・歴史的な背景や中国語の特徴と関連づけて考え、また他国・他地域の文学と比較してとらえることは、自らの「文学観」を相対化し、中国文学に対して多角的で深い視座を持つために非常に重要であると考えられます。本講義を通じて、そのような視座を養ってもらいたいと希望します。

【日本文学関係】
 日本文学の時代は長きにわたり、ジャンルも様々です。それらをどのように学んでいくかはテキストに記述してありますが、実際のレポート執筆では、自分でテーマを選び、論点を絞ることが必要になります。それには、基本的な文学史だけでなく、文学をどうとらえたらよいかの理論的な基礎が必要になります。言うまでもなく、感想だけではレポートになりません。それでは、客観的な事実だけを書けばよいレポートになるかというと、文学の場合、そうとも言い切れないのが難しいところです。それらを言語化して説明している最近の参考文献を下記に挙げました。特に近代文学は、(語釈を怠ってよいわけではありませんが)作品の語の意味は大抵わかりますし、残されている周辺の資料も膨大で、読みの深め方と文献の収集・選択の練習に適しているため、参考文献はそれらを中心的に述べているものにしました。

【フランス文学関係】
 フランス文学は、詩、演劇、小説、批評、思想の如何なる分野でも、数多くの傑作を生み続けております。リヴァロル(18世紀のモラリスト)の有名な言葉「明晰ならざるものはフランス語にあらず」、にあるように、フランス人は自国語に対する自負が深く、フランス語は洗練を重ねられ、重視されてきました。そのフランス語を使ってつくられてきたフランス文学は勿論「明晰さ」を指針とし、特徴としては主に、人間的、社会的、社交的等といわれています。特に、フランス文学における「人間観察の鋭さ」には、日本人である皆さんも、詩や小説の読者として、また戯曲の観客として、触れたことがあるのではないでしょうか。作品を読みながら、人間の内面についてここまで深く分析するのか、と驚いたこと、あるいは自分自身の言葉にならない気持ちが明確に描写されていて、代弁者を見つけて救われた気持ちになったことがあるかもしれません。または、このようなことまで暴かなくてもよいのに、と目を覆いたくなるような描写を前に逃げ出したくなったことはありませんか。フランス文学は人間の良い面も悪い面も、清らかな姿も醜い姿も、悲劇も喜劇も、すべて、ありのままに描いています。ですからそこには、いかなる時代、いかなる国の人間にも、普遍的に響いてくるものが流れているのです。フランス文学作品を読めば読むほど、自分を含めて「人間」に対する理解が深まってくるかもしれません。
 このような心の栄養としての読書を体験したら、レポートを書くために知性の活動に移りましょう。即ち、興味を持って読んだ作品の作者の生涯、時代背景を調べ、文体・主要テーマなどについて文献を探索し、作品の理解を広げるのです。
 フランス文学の特徴である人間観察、人間心理の深い分析が如実に現れるものの一つに、恋愛文学の系譜があります。12世紀の『トリスタンとイズー』の物語にはじまり21世紀に至るまで、その例を挙げればきりがありません。この系譜を扱う研究もまた少なくありません。通史的にごく一例をみるなら、トルバドゥールたちが愛を吟じた後、16世紀は恋愛詩人・ロンサールが愛する女性にオードを捧げ、古典主義時代はラシーヌが『アンドロマック』や『フェードル』で、人間を捉えて離さない破壊的な情念の悲劇を美しい韻文で表現しました。18世紀にはファム・ファタルのイメージの源流となる『マノン・レスコー』がアヴェ・プレヴォーの小説によって語られます。19世紀にはスタンダールの『赤と黒』、バルザックの『谷間の百合』など、青年と既婚女性との情熱的な恋愛を描いた小説が誕生します。20世紀には、クローデルが、すれ違いの悲恋が地球規模で展開される大恋愛劇『繻子の靴』を舞台に表現し、また女流作家デュラスは『愛人』でオート・フィクションを発表しました。
 プラトニックな愛、不可能な愛、倒錯的な愛……とそのテーマは様々で、その表現形式も詩、劇、小説と多様です。フランス文学にはなぜこれほどにまで恋愛が描き続けられ、また数々の傑作が生まれ続けているのでしょうか。なるべく多様な種類の作品を読み、考えていきましょう。

【演劇関係・ドイツ文学関係】
 ドイツ語圏の文学は、哲学や音楽、また自然科学とも複雑に関連し合って、大きな表現の世界を作り上げてきました。また、ヨーロッパの中央部に位置しながら、長らく統一国家が形成されなかったことも、ドイツ語圏の文化をより一層複雑なものとしています。多様性の中の総合性、変転の中の普遍性を見つめる視線をもって、ドイツ語圏の文学に取り組んでいただきたいと思います。

【英米文学関係】
 英米文学は長い伝統を持ち、デフォー、ディケンズ、メルヴィルなどの小説、ミルトン、ワーズワース、エリオット、ホイットマン、ディキンソンなどの詩、シェイクスピアやワイルドの演劇など、多彩な作品が世界中で読まれ、翻訳もされています。広くイギリスやヨーロッパの文学伝統や歴史に親しむことができますし、普遍的な人間性への考察や多様な表現の世界が広がっています。
 文学作品には、それが書かれた時代と社会の姿が否応なく反映されるものです。作者がそれらをいかに理解し自分自身の問題とした上で、作品としてどのように再構成・表現したかに注目しましょう。考察する際には、自分の興味に応じて時代、作品を選ぶことになりますが、この段階でよく調べ考え抜くことが良いレポートを書く秘訣です。読んで面白かった作品を選び、その面白さ、自分の興味を喚起した点について、単なる感想文にならないよう、客観性ある論拠を挙げながら論旨を組み立てていくこと。それには、参考文献を渉猟し、作品とその時代、そして作者への理解を深めることも重要です。

テキストの読み方

【中国文学関係】
 テキストに加え、下記参考文献の①~③を読んで、中国文学の特徴を各ジャンルごとに(特に漢詩を中心に)把握すること。
 さらに、④を読んでそれぞれの特徴や各作品を文学史の観点から整理し、前後の時代の特徴と比較すること。
 特に漢詩については、⑤~⑧を読んで知識・理解を深めること。
 加えて、各詩人および作品についてさらに深く考察し、先行研究を調査するために、⑨を利用すること。

【日本文学関係】
 テキストに加えて、下記の参考文献を読み、さまざまな作品やテーマについて知り、論じ方についての理解を深めること。基本的な考え方・理論の部分は重複もありますが、対象作品が載っている場合はそれを読み、自分ならどのように解釈するかを考える練習を積み重ねてください。参考文献①は、日本文学のテーマを広く扱っています。②と④には扱っている作品の本文が収録されています。③は「卒業論文」とありますが、規模を除いては、通常のレポートを書く際にも参考になります。文章の推敲のしかたなども書かれていて丁寧です。⑤は世界文学として日本文学を扱っており、多彩な作品を知ることができます。

【フランス文学関係】
 取り上げた作品をレポートの課題にそくして、ていねいに読んでください。

【演劇関係・ドイツ文学関係】
 教科書は授業の代替となるものですから、ただ一度読んで済ますのではなく、それぞれの単元の内容を十分に「理解」し、「習得」することができたかどうか、確認しながら読むようにしてください。できるだけ詳細にノートをとりながら読み、そのノートで復習するようにするとよいでしょう。

【英米文学関係】
 テクストでは文学についての概説を知ることができます。これを把握して、英米文学については自身の読書体験や参考文献をたどって、論述を行うに足るテーマを見つけてください。

履修上の注意

【中国文学関係】 
 まずはテキストと参考文献を読んで、中国文学の特徴、とりわけ他の国・地域の文学と比較して顕著な特徴について、特に漢詩のジャンルを中心によく理解すること。
 次に、自分が選択した詩人や文学者、作品にそうした特徴がどのように表れているのかについて、他の詩人・文学者との比較を含めて注意深く分析し、先行研究も踏まえつつ論じること。

【日本文学関係】
 先行研究をまとめるだけでなく、自身の考察を行うための知識と技術が必要です。また、対象作品を自身で選択する視野の広さと、文学だけでなく、テーマに即した隣接諸学への関心が求められます。

【フランス文学関係】
 特になし。

【演劇関係・ドイツ文学関係】
 テキスト『近代ドイツ演劇』や『近代ドイツ小説』も通読しておくことをおすすめします。

【英米文学関係】
 単にある作家や作品に関心があるというだけでなく、アカデミックな姿勢で対象に取り組む姿勢が大事です。

関連科目

【フランス文学関係】
 テキスト『フランス文学概説』、『フランス文学史Ⅰ』、『フランス文学史Ⅱ』の学習も役立ちます。

【演劇関係・ドイツ文学関係】
 文学研究は、視点の置き方次第で、あらゆる学問領域に関連付けることが可能です。哲学、歴史学、社会学、心理学、自然科学まで、問題意識を大胆に広げてみてください。

成績評価方法

【中国文学関係】
 科目試験による。

【日本文学関係】
 科目試験による。

【フランス文学関係】
 科目試験による。

【演劇関係・ドイツ文学関係】
 科目試験による。
 以下の条件が十分に満たされているレポートでないと、合格になりません。
 ・出題に対して、明確な答えが提示されている。
 ・要求された数の参考文献に言及され、適切に引用されている。
 ・引用文と地の文の区別が完全に明確に書かれている。
 ・自分の論と、参考文献等に書かれている事柄が完全に明確に区別されている。
 ・自分の主張については、そう考える根拠が明示され、さらにそれが「根拠となる根拠」も明らかにされている。
 ・論述の文章が十分に推敲されている。

【英米文学関係】
 科目試験による。

参考文献

【中国文学関係】 
①吉川幸次郎『中国文学入門』講談社学術文庫、1976年
②興膳宏編『中国文学を学ぶ人のために』世界思想社、1991年
③前野直彬『中国文学序説』東京大学出版会、1982年
④前野直彬編『中国文学史』東京大学出版会、1975年
⑤佐藤保『詳講 漢詩入門』筑摩書房(ちくま学芸文庫)、2019
⑥小川環樹『唐詩概説』岩波書店(岩波文庫)、2005年
⑦吉川幸次郎『宋詩概説』岩波書店(岩波文庫)、2006年
⑧吉川幸次郎『元明詩概説』岩波書店(岩波文庫)、2006年
⑨『中国古典文学案内』日外アソシエーツ、2004年

【日本文学関係】
①千葉一幹・西川貴子・松田浩・中丸貴史編『日本文学の見取り図―宮崎駿から古事記まで 』(シリーズ・世界の文学をひらく 5) 2022年、ミネルヴァ書房
②荒井裕樹・五井信・瀧田浩・中谷いずみ・山口直孝『ここから始める文学研究―作品を読み解くために』2022年、みずき書林
③斎藤理生・松本和也・水川敬章・山田夏樹編『卒業論文マニュアル 日本近現代文学編』2022年、ひつじ書房
④石川巧・飯田祐子・小平麻衣子・金子明雄・日比嘉高編『文学研究の扉をひらく—基礎と発展』2023年、ひつじ書房
⑤小倉孝誠編『世界文学へのいざない―危機の時代に何を、どう読むか』 (ワードマップ) 2020年、新曜社

【フランス文学関係】
秋山伸子『フランス演劇の誘惑─愛と死の戯れ』岩波書店、2014
池澤夏樹『世界文学を読みほどく─スタンダールからピンチョンまで』新潮選書、2017
鹿島茂『悪女入門 ファム・ファタル恋愛論』講談社現代新書、2003
工藤庸子『フランス恋愛小説論』岩波新書、1998
トニー・タナー(著)高橋和久(翻訳)『姦通の文学─契約と違犯 ルソー・ゲーテ・フロベール(思考の響応)』朝日出版社、1986
月村辰雄『恋の文学誌─フランス文学の原風景をもとめて』筑摩書房、1992
東浦弘樹『フランス恋愛文学をたのしむ(その誕生から現在まで)』世界思想社、2012
野崎歓『フランス文学と愛』講談社現代新書、2013
横山安由美、朝比奈美知子『はじめて学ぶフランス文学史』(シリーズ・はじめて学ぶ文学史)、ミネルヴァ書房、2002
ドニ・ド・ルージュモン『愛について─エロスとアガペ』上・下巻、平凡社ライブラリー、1993
渡辺一夫、鈴木力衛『フランス文学案内』岩波文庫、1990

【演劇関係・ドイツ文学関係】
手塚富雄・神品芳夫『ドイツ文学案内』岩波文庫、1993
池内紀『ぼくのドイツ文学講義』岩波新書、
1996
柴田翔『はじめて学ぶドイツ文学史』ミネルヴァ書房、
2003
ハインツ・シュラッファー『ドイツ文学の短い歴史』(和泉雅人+安川晴基訳)同学社、
2008
畠山寛ほか(編著)『ドイツ文学の道しるべ−−ニーベルンゲンから多和田葉子まで』ミネルヴァ書房、2021年

【英米文学関係】
・浦野郁、奥村沙矢香編著『よくわかるイギリス文学史』ミネルヴァ書房、2020年(時代背景や有名作品と作者の紹介、典型的な読み方などを要領よくまとめている。)
・巽孝之、宇沢美子編著『よくわかるアメリカ文学史』ミネルヴァ書房、2020年(文化史的に広いトピックを網羅している。)

レポート作成上の注意

【中国文学関係】
 はっきりと読みやすく書くよう心がけること。
 必ず具体的な作品(一部でもよい)を引用し、「その引用をどのように分析・解釈するのか、その引用からどういうことが言えるか」を記述の中心とすること。
 レポート本文では、自分が考察した部分と引用文や参考文献を参照した部分を明確に区別し、引用・参照した文献の書誌情報と該当ページを明記すること。

【日本文学関係】
 必ず、レポートの書き方についての文献を参照してください。参考にした文献については、最後に文献を羅列するのでなく、どこに何を使用したかの対応関係がわかるように、注番号で示してください。また、文献をまとめただけに終わらないように、自分の考察・意見を重視してください。

【フランス文学関係】
 レポートを作成する際は、まず、作品を深く読み込み、メモをとりながら、あるいは付箋をつけながら自分の読み方を明確にしてください。次に、作者や作品、テーマに関する先行研究を複数参照してください(一つに影響されすぎないようにしましょう)。もし先行研究を読んでいて、自分の考えが既に誰かによって言われていた(自分の考えはオリジナルではなかった)、と思っても落胆せず、自分の読みは妥当性があった、と前向きに認識してください。また、考えもしなかった解釈に出会ったら、賛成できる部分は取り入れつつ、さらに新たな視点を探しながら、自分の読みを続けてください。自分の考えが整理できたら、参考文献からの引用と自分の読みとをしっかり区別しながら記述して、論じてください。

【演劇関係・ドイツ文学関係】
 自分の書きたいテーマが何であるのか、どのような「問い」に対して、どういう「答え」を述べようとしているのか、つねに鮮明に意識しつつ、全体の構成を見据えながらレポートを作成してください(実際に、論文・レポートの内容の見取り図を書いてみるとよいでしょう)。書こうとしているにテーマにどのような先行研究があるのかも可能な限り調べて、論述の冒頭において簡潔に言及するようにしてください。参考文献に記されている「見解」と、自分のそれとが混同しないように気をつけて、クリアに多層的な論述を心がけてください。

【英米文学関係】
1.レポート冒頭で、作家名、作品名、翻訳を用いるなら訳者名、使った版の出版社名、出版年を明記すること。
2.レポートの内容・論旨を端的に示す独自のタイトルを付けること。
3.作品の「あらすじ」は不要。自分の論を展開する上で不可欠な場合のみ、必要に応じて部分的に導入すること。
4.自分の考えと参考文献等から得た知識とは明確に区別し、後者を引用する場合はもちろん、咀嚼し要約などして用いる場合でも、それぞれの箇所で注を施し、末尾(あるいはページ下部)に〔注〕として出典をページ番号まで明記すること。
5.末尾には完備した〔参考文献〕一覧をつけること。
6.その他の点については、『塾生ガイド』掲載の「レポート作成・提出」に紹介されているような手引きを参考にすること。