科目名 | |||
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マクロ経済学中級 | |||
科目設置 | 経済学部専門教育科目 | 授業形態 | テキスト科目 |
科目種別・類 | 単位 | 4 | |
キャンパス | - | 共通開講学部 | - |
設置年度 | 2025 | 授業コード | T0EB100601 |
経済学部通信教育課程において最初に学ぶ必修科目の中に「経済原論(マクロ経済学)」があるが,変化や変動の大きい今日のマクロ経済環境をしっかり理解し分析を行うためには,「経済原論(マクロ経済学)」の内容だけでは全く足りない.通学課程においても,入学後すぐに日吉キャンパスで学ぶ「マクロ経済学初級」の後に三田キャンパスで学ぶ「マクロ経済学中級」があり,これらの科目はシーケンスとして順番に学習するようにカリキュラムが構築されている.通信教育課程においても通学課程と同様のカリキュラムを構築することを目的にこの「マクロ経済学中級」を設置している.
社会科学において経済学は自然科学における数学や物理学と同様に,世界的に標準的な学習内容の基準がほぼ決められており,その基準に従い順序だって学習していく必要がある.したがって,経済学部の全ての学生が「経済原論(マクロ経済学)」の学習の後に,この「マクロ経済学中級」を学習するべきであると考えている.そのことにより,他の応用科目の学習や卒業論文の執筆に必要な基礎的な知識がしっかりと身に付く. 経済学部における専門分野の学習には,分野ごとに,国際経済学,金融論,労働経済学,環境経済学,国際金融論,経済開発論などの様々科目が一般的に設けられているが,それらの科目のマクロ経済的な部分の基礎となるのが,マクロ経済学中級である.
本科目では,日本経済の現状を解説し,その現状を理論モデルで説明することを試みる.また金融財政政策の効果についても,実際に行われている政策の詳細を説明しながら講義を行う.本科目は,公認会計士試験,不動産鑑定士試験,公務員試験などの試験の対策,就職時の面接の対策としても有効であるが,それよりも大学を卒業した後に必要となる経済の現状を分析する力が身に付くことになる.この後者の目的がより重要であり,経済に関する分析能力は一生に渡って役に立つであろう.また,通信教育課程には既に社会で活躍している学生も多数在籍しているが,実社会において役に立つ科目となっている.日本経済は1990年代初頭にバブルが崩壊して後は,30年以上にわたって経済が低迷している.失われた30年と呼ばれているが,その原因はどこにあるのであろうか.日本経済が再び成長路線に戻る施策にはどのようなものが考えられるであろうか.そのような疑問に対する処方箋を作成する方法論を本科目で学ぶことになる.
マクロ経済学の本質は時点間の資源配分である.その異時点間の資源配分を分析するツールとして動学モデルが存在する. 各経済主体は現在の行動を決定するときに,現在の経済状況のみを問題にするのではなく,将来の経済状況に関してもいろいろと考えるはずである.「経済原論(マクロ経済学)」で学んだケインズ経済学は,過去から将来まで続く経済の時間軸の中で,現在時点だけを取り出して分析したもので,経済主体の将来に関する期待などは考慮されていなかった.けれども,将来の期待などを取り入れて分析することが可能な厳密な動学モデルはその数学的な構造が難解で,従来では経済学の大学院で教える内容であった.この科目では経済学部通信教育課程用に内容を簡単化して習得しやすいように工夫している.
「マクロ経済動学(第2版)」(前多康男著,2022年,銀河書籍,ISBN:978-4-86645-271-5)
講義用に編纂したテキストであるので,慶應出版会から購入すること.一般の書店では販売していない.初版ではなく第2版を購入すること.
(解説動画について)
『マクロ経済動学』の各章の説明動画が入っているGoogleドライブのurlを以下に示す.適宜学習の参考にすること.urlをブラウザーにコピー・ペーストすることでGoogleドライブにアクセスできる.(この動画は『マクロ経済動学』の初版の解説動画であるが,『マクロ経済動学(第2版)』の学習の参考になると考える.)
https://drive.google.com/drive/folders/1P4oE1KCf6Nn4emmFrgB-9ATzUOEhHw-v?usp=sharing
なお,通信教育課程の学習は基本的にテキストにより行うもので,動画の視聴はテキストの理解の助けになることを期待しているが,レポート課題および科目試験の準備にはテキストの通読を基本とする.レポート課題および科目試験の準備に必ずしも動画の視聴を必要とはしない.
動画の視聴方法について質問がある場合は、通信教育課程ホームページの「お問い合わせフォーム」より問い合わせること.
また、動画の内容について質問がある場合は、塾生ガイド「学習サポート」に記載の「質問用紙による質問」項目を確認のうえ、質問用紙を使用して質問すること.
テキストとして「『マクロ経済動学(第2版)』,前多康男著,2022年,銀河書籍,ISBN978-4-86645-271-5」を用いる.このテキストは慶應義塾大学経済学部の学生用として編纂しているもので,慶應出版会のみから購入できる.一般の書店での扱いはしていないことに注意して欲しい.
テキストの,第I部「長期モデル」では,経済成長のモデルを解説する.最初に,経済成長の基本的なモデルであるソローモデルについて学ぶ.ソローモデルは1人あたり資本ストックを変数とする動学モデルとして記述される.ソローモデルでは,1人あたり資本ストックの水準の時間経路は,定常水準と呼ばれる一定値に最終的に近づくことになる.また,1人あたり資本ストックの定常水準は,人口成長率や貯蓄率に依存する.ソローモデルの原理を理解しながら,モデル全体の理解を深めて欲しい.数学的な展開の詳細が理解できなくてもそれほど気にする必要はない.
第II部「短期モデル」では,景気循環のモデルを解説する.金融政策ルールを明示的に導入したIS-MPモデルの解説をまず行い,その後で,AD-ASモデルの解説を行う.具体的には,金融政策ルールを説明した後に,IS方程式に金融政策ルールを導入することでAD方程式を導出する.次に,フィリップス方程式に供給ショックを明示的に導入して,AS方程式を導出する.この導出されたAS方程式とAD方程式を連立したモデルをAD-ASモデルと呼ぶ.定常状態にあるAD-ASモデルに供給ショックが生じた場合の動学経路,目標インフレ率が変更された場合の動学経路,需要ショックが生じた場合の動学経路について順番に解説する.このAD-ASモデルはテキストの核となる部分であるので,テキストを何回も読み返して理解を深めて欲しい.数学的な展開を厳密に理解する必要はないが,均衡の動学的な動きに関しては,その原理を理解して欲しい.
AD-ASモデルを解説した後で,1970年以降の日本のマクロ経済の分析を行う.インフレ率と短期所得のマクロデータをプロットすることにするが,短期所得については代理変数として失業率と自然失業率の差を使用している.AD曲線とAS曲線のシフト要因を探りながら,実際のマクロ経済におけるインフレ率と短期所得の動きを説明することになる.また,日本銀行の金融政策の変遷に関しても時間軸に沿って調べていく.ゼロ金利政策,量的緩和政策,量的・質的緩和政策,マイナス金利政策について,手法や効果などを解説していく.この3章と4章の部分は,実際のマクロ経済に関する事柄及び金融システムについてまとめてあるので,よく読んで,経済の流れを理解して欲しい.
第III部「動学モデル」では,時点間の資源配分の問題を動学的に扱う.マクロ経済学の本質は時点間の資源配分である.その異時点間の資源配分を分析するツールとして動学モデルが存在する.マクロ経済学の初級のテキストでは,主にケインズモデルの解説が行なわれる.ケインズモデルは,初めてマクロ経済学を学ぶ学部学生にとっては,親しみやすい経済学として,その教育的な観点から価値があると言えるが,現実の経済の詳細な分析を行うツールとしては動学的な観点が欠けているという問題がある.各経済主体は現在の行動を決定するときに,現在の経済状況のみを問題にするのではなく,将来の経済状況に関してもいろいろと考えるはずである.経済原論で学んだケインズ経済学は,過去から将来まで続く経済の時間軸の中で,現在時点だけを取り出して分析したもので,経済主体の将来に関する期待などは考慮されていなかった.けれども,将来の期待などを取り入れて分析することが可能な厳密な動学モデルはその数学的な構造が難解で,従来では経済学の大学院で教える内容であった.しかし,そのような教育体系では,大学院に進学しない学生には,動学モデルを学ぶ機会が与えられず,また,大学院に進学する学生にとっても,学部のマクロ経済学と大学院のマクロ経済学のギャップが激しく,大学院で動学的なマクロ経済学を初めて習い戸惑うことが多い.
この第III部は,学部で学ぶマクロ経済学と大学院で学ぶマクロ経済学の橋渡しをする意味で執筆した.数学的に高度な展開となっているので,より高度の理論を学びたい学生にチャレンジして欲しい.特に卒論執筆などでマクロの理論をテーマにしている学生は熟読する必要がある.しかし,マクロ経済学中級の科目としては,一般の学生は第I部と第II部の理解で十分であると考えている.したがって,科目試験とレポート課題はテキストの第I部と第II部(第5章を除く)を対象に策問される.
「経済原論(マクロ経済学)」および「経済原論(ミクロ経済学)」を先に履修することが望ましい.
科目試験による.
参考書として「『マクロ経済学(第2版)』,前多康男著,2021年,銀河書籍,ISBN978-4-86645-182-4」を用いる.この参考書は慶應義塾大学の学生用として編纂しているもので,慶應出版会のみから購入できる.一般の書店での扱いはしていないことに注意して欲しい.
『マクロ経済学(第2版)』は『経済原論』(慶応義塾大学教材)と『マクロ経済動学(第2版)』の中間の難易度のもので,『マクロ経済動学(第2版)』の内容が難しいと感じた生徒は『マクロ経済学(第2版)』を先に読むことをお勧めする.
(解説動画について)
『マクロ経済学(第2版)』の各章の説明動画が入っているGoogleドライブのurlを以下に示す.適宜学習の参考にすること.urlをブラウザーにコピー・ペーストすることでGoogleドライブにアクセスできる.
https://drive.google.com/drive/folders/1XHSSG1qR_7bDyYWxpNpE1R4jdytkAZ9B?usp=sharing
なお,通信教育課程の学習は基本的にテキストにより行うもので,動画の視聴はテキストの理解の助けになることを期待しているが,レポート課題および科目試験の準備にはテキストの通読を基本とする.レポート課題および科目試験の準備に必ずしも動画の視聴を必要とはしない.
動画の視聴方法について質問がある場合は、通信教育課程ホームページの「お問い合わせフォーム」より問い合わせること.
また、動画の内容について質問がある場合は、塾生ガイド「学習サポート」に記載の「質問用紙による質問」項目を確認のうえ、質問用紙を使用して質問すること.
論理的な道筋を考えて作成すること.