慶應義塾大学通信教育部シラバス

科目名
日本史特殊
担当教員名
前田 廉孝
科目設置 文学部専門教育科目 授業形態 夜間スクーリング
科目種別・類 第2類 単位 2
キャンパス 三田 共通開講学部 法学部「日本史特殊」として開講
設置年度 2025 授業コード 52531

授業科目の内容

 本科目の目的は,クリオメトリクス(Cliometrics: 計量経済史)研究を中心とした定量的歴史研究に用いられる数量データの作成法と特性を理解し,数量データの収集方法を習得することにある。近現代史研究では記述史料のみならず数量データの利用が可能であり,なかでも日本は諸外国と比しても数量データが豊富に残されている。そこで,近現代史研究では定性分析(qualitative analysis)・定量分析(quantitative analysis)の併用が進展し,自然科学を含む多様なディシプリンから参入した研究者による国際的協業が進んでいる。こうした国際的協業の過程では自然科学・社会科学の分野において用いられる汎用的な分析法の導入が進展し,定量的なエビデンスが重要視される。したがって,前近代対象の歴史研究と比較すれば,近現代史研究は数量データに基づく定量分析の重要性を高く評価している。但し,定量分析を核とする近現代史研究であっても歴史研究の一分野として,記述史料と同様に数量データの分析もまた史料批判の作業から始めなければならない。そのためには,各数量データの作成法と特性に対する理解が求められる。そこで,本科目は近現代日本経済史研究で用いられる基礎的な統計書を対象に,1)数量データの作成法とその変遷,2)数量データの特性,3)数量データの収集方法について講じる。

第1回講義内容
イントロダクション:歴史研究の定量分析 【内容】担当教員紹介/本講義の概要/近現代史研究の定量分析/定量的歴史研究の手法 【目的】本講義の目的を理解する/人文社会科学研究の国際的潮流を理解する/定量的歴史研究で用いられる手法の概要を把握する

第2回講義内容
クリオメトリクスと史料・データ 【内容】経済史とクリオメトリクス/クリオメトリクスの分析手法/日本近現代史研究の史料 【目的】クリオメトリクスと経済学,歴史学,経済史学との関係性を理解する/クリオメトリクスの意義,限界を理解する/クリオメトリクスの分析手法を把握し,必要なスキルを理解する/歴史研究における史料の類別と日本近現代史研究の基礎資料を把握する

第3回講義内容
数量データの収集と基本統計 【内容】数量データの類別/中央政府刊行統計書/地方政府刊行統計書/1人あたり経済諸量と人口統計 【目的】数量データの類別を理解し,与えられたデータの類別判定に基づく特性把握が可能になる/中央省庁の変遷と管轄を把握し,適切な中央政府刊行統計書を選択できるようになる/地方政府刊行統計書の特性を理解し,中央政府刊行統計書と併用できるようになる/1952年住民票作成開始以前の行政による現住人口把握の方法を理解する/現住人口,国勢調査人口,推計人口の各特性と誤差の差異を理解する

第4回講義内容
マクロデータ推計の手法・成果・課題 【内容】国民経済計算の原理・歴史/LTES(長期経済統計)/Maddison推計/高島推計 【目的】国民経済計算の原理を理解し,三面等価の原則とGDP・GNP・NDPの意味を捉える/国民経済計算の歴史を把握し,1950年以前のマクロ経済変数が推計値であることを理解する/LTES・Maddison推計・高島推計それぞれの推計方法を理解する/LTES・Maddison推計・高島推計の成果及び意義を理解する/LTES・高島推計とMaddison推計間における推計アプローチの差異を理解する

第5回講義内容
政策立案史料 【内容】政策史料分析の基礎/政策立案過程の史料/公文書(政策文書)/政府首脳旧蔵史料/官僚執務史料/調査会資料/記述史料の分析法 【目的】経済史研究における政府の役割をめぐる分析の重要性を理解する/政策立案の過程を理解し,各過程の分析に必要な公刊史料・1次史料を適切な図書館・アーカイブズ・データベースから収集できるようになる/法案史料・政府首脳旧蔵史料・官僚執務史料の構造と特性を理解する

第6回講義内容
政策運用・財政史料 【内容】法案審議過程の分析/政策運用過程の分析/政策運用と財政運営/戦前日本の一般会計/戦前日本の特別会計/財政運営の分析 【目的】議会議事録・党報をデータベース等から収集し,議員・官僚の属性調査を合わせて実施することで法案審議過程を分析できるようになる/政策運用の根拠規則をデータベース等から収集し,政策運用過程を分析できるようになる/政策運用を財政の観点から分析する視角を理解する/戦前日本における財政運営の特徴を理解し,適切な財政史料を分析できるようになる

第7回講義内容
名目データの実質化と物価指数 【内容】実質化とデフレーター/物価指数の作成法/物価指数の種類/日銀卸売物価指数/日銀戦前基準卸売物価指数/小売物価指数・消費者物価指数 【目的】名目・実質価格の差異を把握し,名目価格を実質化する方法と実質化の意義を理解する/物価指数の作成法と公式を把握し,単純算術平均・単純幾何平均・基準時加算算術平均・ラスパイレス指数・パーシェ指数の相違点と共通点を理解する/卸売物価指数・企業物価指数・小売物価指数・消費者物価指数の差異を理解する/戦前期における各物価指数の作成法を把握し,分析に適した指数を選択できるようになる

第8回講義内容
商品価格データ 【内容】主要都市卸売物価/都市別卸売物価/自治体刊行統計書/商業(商工)会議所月報・年報/小売物価/価格データの加工と分析/価格分析の新潮流 【目的】適切な資料を選択し,都市別の卸売物価データを作成できるようになる/金融事項参考書・商工省作成統計から小売物価データを作成できるようになる/価格データを加工し,物価変動と季節性を除去したデータを作成できるようになる/高頻度価格データを用いる価格分析の新潮流を理解する

第9回講義内容
数量指数と生産データ 【内容】数量指数の作成法/生産指数/農業生産指数/鉱工業生産指数/農業統計/鉱工業統計 【目的】数量指数の作成法と公式を把握し,基準時加算算術平均・ラスパイレス指数・パーシェ指数の相違点と共通点を理解する/農業生産指数と鉱工業生産指数の作成法と沿革を把握し,不連続時点を挟む生産指数を適切に扱えるようになる/戦前期農林水産業・鉱工業の生産動向を適切な統計書より分析できるようになる

第10回講義内容
会社統計と貿易・物流データ 【内容】商業史研究の方法/会社統計/貿易統計/物流統計 【目的】商業史研究で利用可能な1次史料の制約を把握し,数量データに基づく分析の意義を理解する/会社統計より各地域・業種の平均的な経営動向と各社の経営規模を分析できるようになる/戦前期日本の貿易統計制度上における外国貿易と植民地貿易の差異を理解し,適切な貿易統計より外国貿易と植民地貿易の動向を分析できるようになる/戦前期日本の海運統計・鉄道統計・都市移出入及び在庫統計より商品流通の実態を分析できるようになる/生産統計・貿易統計・物流統計・在庫統計より都市消費量を推計できるようになる

第11回講義内容
会社経営と労働・金融データ 【内容】戦前日本の会社経営/会社の内部史料/営業報告書/経営環境の分析/賃金統計/金融統計 【目的】会社の経営と経営環境の分析に必要な史料・統計の概要を把握する/会社の経営分析に不可欠な財務諸表データの取得方法を理解する/会社が労働者を雇用する際に必要な賃金のデータを取得する方法を理解する/会社が資金調達の判断に用いる株価・金利のデータを取得する方法を理解する

第12回講義内容
試験・講評・総括

その他の学習内容
  ・小テスト

成績評価方法

最終日の授業内試験により評価する。

テキスト(教科書)※教科書は変更となる可能性がございます。

プリントを適宜配布する

参考文献

プリントを適宜配布する

受講上の要望、または受講上の前提条件

 初回に全回分のハンドアウトを配布する。そのハンドアウトにより必ず予習・復習(各60分程度)をすること。なお,本科目は(1)中学数学の内容を理解していること,(2)総和記号(Σ)の公式(高校数学B)を理解していること,(3)インターネットブラウザの操作をできること,を前提として進める。