慶應義塾大学通信教育部シラバス

科目名
哲学
担当教員名
岡嶋 隆佑/戸澤 幸作
科目設置 総合教育科目 授業形態 夜間スクーリング
科目種別・類 3分野科目/人文科学分野 単位 2
キャンパス 三田 共通開講学部 -
設置年度 2020 授業コード 12001
開講期間 10月7日(水)~1月6日(水) 曜日・時間等 水曜日、18:20~20:05

授業科目の内容

この講義では、前後半に分かれて異なる二つの哲学的な問題を紹介し検討します。
  前半の岡嶋パートでは、20世紀のフランスの哲学者アンリ・ベルクソンの著作を講読する形で、自由の問題を扱います。まず、自由の問題について考察にするために必要な、意識的な状態がもつ質感や、その量的表現、意識的な時間とその数的表現など、主張な論点を検討します。その上で、自由にかかわる哲学上のトピックである、偶然性や予見可能性、因果性といった諸問題に取り組みます。
 講義後半の戸澤のパートでは、哲学における信と知の関係に焦点を当て、「信念」に関する認識論的な考察を行う。私たちの現実は、多くの信念のもとに成り立っている。哲学は、概念と論理を用いてこの現実に向き合い、その信念の根拠を問う。このことは、哲学的営みである「懐疑」と「信じること」が、常に独特の緊張関係のなかにあることを示している。とりわけ、西洋文明において、一神教的信仰と哲学的思考の関係は本質的なものでさえある。けれどもまた、信と知の独特の関係は、一神教的伝統が生まれる遥か以前から、哲学に息づいてもいた。例えば、ソクラテスは、他ならぬ自らの生死を賭けた裁判において、何よりもまず神を信じ、神託の意を信じるゆえに、「私の息のつづく限り、私にそれができる限り、決して知を愛することを止めないだろう」(『ソクラテスの弁明』)と語ったのである。そして、この緊張関係はいまだ哲学という営みの根幹で、重要な問いを投げかけている。このパートでは、Roger Pouivetの大陸系‐分析系哲学を横断する下記の著作(参考書を参照)を主たる手がかりとしながら、「信念」を巡る現代的な議論の一端を紹介する。※なお、オンライン授業の制約上、シラバスの各回の講義予定は、状況に応じて適宜変更する可能性があります。

第1回講義内容
イントロダクション・人物紹介(岡嶋)

第2回講義内容
意識の質と量(岡嶋)

第3回講義内容
意識的時間①(岡嶋)

第4回講義内容
意識的時間②(岡嶋)

第5回講義内容
自由意志と決定論①(岡嶋)

第6回講義内容
自由意志と決定論②(岡嶋)

第7回講義内容
講義後半イントロダクション・人物紹介(戸澤)

第8回講義内容
「信じること」の暴力とモラルを巡る今日的諸問題(戸澤)

第9回講義内容
信仰は信念一般と同一視できるのか?(戸澤)

第10回講義内容
信念は合理性と対立するのか?(戸澤)

第11回講義内容
真理は論証によってのみ開示されるのか?(戸澤)

第12回講義内容
信念と実存はどのような関係にあるのか?(戸澤)

その他の学習内容
  ・毎回の授業後に簡単なフィードバック・コメントを書いてもらいます(成績評価には含みません)。

成績評価方法

全授業終了後に設けられる期日までに提出されるレポートによって評価します。

テキスト(教科書)※教科書は変更となる可能性がございます。

指定しない。

参考文献

意識に直接与えられたものについての試論/アンリ・ベルクソン ちくま学芸文庫 2002
「神」という謎 宗教哲学入門/上枝美典 世界思想社 2007
宗教哲学/ジャン・グロンダン 白水社 2015
Épistémologie des croyances religieuses/Roger Pouivet Les éditions du cerf 2013
Le monothéisme et le langage de la violence/Jann Assman Bayard Éditions 2018

受講上の要望、または受講上の前提条件

 岡嶋パートでは基本的に参考文献に挙げた、ベルクソンの著作に沿って授業を行います。なお、当初のシラバスには、映画を用いた説明を行うという主旨の記載をしておりましたが、全面オンライン授業化に伴い、予定していた形での授業が不可能になりました。そのため、岡嶋パートについては、類似したテーマについて、オンライン授業に適した講読の形態で授業を行うこととします(この点については初回の授業で詳細をお伝えします。なお指定の著作が事前に手に入りにくいかもしれませんので、最初の数回分についてはこちらでPDFを用意する予定です)。
 戸澤のパートは、宗教哲学関連の参考書を挙げていますが、宗教そのものではなく、あくまで信念の形式(「私は~を信じる」)に関する広義のエピステモロジー的(知の構成に関する反省的な)考察を主眼とすることにご留意ください。日本語で読めるものとしては、上記の参考書のうち『「神」という謎 宗教哲学入門』の第Ⅳ部「信仰と理性」が特に参考になります。