慶應義塾大学通信教育部シラバス

科目名
社会科学特論
担当教員名
梅原 秀元
科目設置 総合教育科目 授業形態 夏期スクーリング
科目種別・類 3分野科目/社会科学分野 単位 2
キャンパス 三田 共通開講学部 -
設置年度 2020 授業コード 12032
開講期間 II期 8/18~8/23 曜日・時間等 1~2限 9:00~12:45

授業科目の内容

 (講義形式について)
 本講義は、オンライン講義で行う。
 具体的には、実際の対面での授業と同じ時間帯(午前中の1時間目と2時間目)に、ライブ配信で講義を行う。
 講義は、音声のみの配信で、ラジオ講座のような形態で行う。
 各講義で、受講生は、自由に質問してもらってかまわない。どのようなルールで行うかは、初日に、講義を行いながらみんなで決めていきたい。

 事前に、各回に使う資料(PDFファイル)を受講生に配信する。資料は、各回の講義で使うパワーポイントをPDFにしたもの と パワーポイントの各ページに書かれているものを極力プリントにしたもの の 2種類である。
 講義は、パワーポイントを見ながら聞いてほしい。そして、できれば、プリントを印刷してほしい。私が講義で話したことで大事だなと思ったことを、印刷したプリントに直接書くと、ノートが出来上がる。
 もし印刷ができない場合は、無理にすべてをノートに書こうとせず、私が講義で話したことの中で、大事だなと思ったことだけを、ノートにメモしてほしい。基本的に、パワーポイントやプリントに既に書いてあることを話すので、話すことすべてをノートに取ることは必要ない。

(講義の内容について)
 本講義では、19世紀後半から20世紀前半にかけてのドイツの医療・公衆衛生の歴史からいくつかのトピックをとりあげ、それぞれがもつドイツ史研究および現在の私たちが直面している問題との関係性を検討する。
 まず、第1回目と第2回目の講義でオリエンティールングを行うとともに、本講義が対象とする19世紀後半から20世紀前半のドイツの歴史を概観する。第3回目では、19世紀にヨーロッパを席巻したコレラ流行とそれに対するドイツにおける医療・衛生の対応を概観する。ここでは主に、実験衛生学と細菌学という二つのアプローチについて検討する。第4回目では、細菌学の限界に対して、1900年頃に提示された社会衛生学というコンセプトとそのアプローチを概観する。第5回から第7回では、第一次世界大戦を取り上げ、戦争と医療・医学との関係を議論する。第8回では、ドイツにおける人口論について検討する。ここではとくに人種衛生学(ドイツの優生学)について概観する。そして第9回から第11回にかけて、ナチス期に精神疾患の患者を主な対象として行われた強制断種と「安楽死」(大量殺害)について検討し、第12回目に全体の総括をおこない、可能ならば、受講生とディスカッションを行う。

 このように、本講義では、具体的な事例(近代ドイツにおける医学・衛生学)を通して科学と社会の相互関係について検討するとともに、これらの事例に関係すると思われる現在の問題-たとえば生命倫理上の問題や障害者問題など-について考えるヒントを見つけることを課題とする。

(成績評価について)
 レポートを提出してもらう。詳しいことは、追ってつたえる。 

第1回講義内容
オリエンティールングと講義内容の概観;19世紀~20世紀のドイツ史概観

第2回講義内容
オリエンティールングと講義内容の概観;19世紀~20世紀のドイツ史概観

第3回講義内容
コレラをめぐって-19世紀のドイツにおける公衆衛生の成立と展開

第4回講義内容
社会衛生学の登場-公衆衛生・社会福祉ネットワークの確立

第5回講義内容
第一次世界大戦と医学-戦争と医学(1)

第6回講義内容
第一次世界大戦と医学-戦争と医学(2)

第7回講義内容
第一次世界大戦と医学-戦争と医学(3)

第8回講義内容
1900年前後のドイツにおける人口論をめぐって

第9回講義内容
治療と絶滅 ナチスドイツと医学(1)

第10回講義内容
治療と絶滅 ナチスドイツと医学(2)

第11回講義内容
治療と絶滅 ナチスドイツと医学(3)

第12回講義内容
総括およびディスカッション

その他の学習内容
  ・課題・レポート
  ・講義の他の形態の学習は特に考えていない。受講生には、まずは、講義を集中して聞いてほしい。そのうえで、講義要綱や毎回の講義で紹介されている参考文献を手に取るなどしてほしい。

成績評価方法

レポートによる。詳細については、追って伝える。

テキスト(教科書)※教科書は変更となる可能性がございます。

とくになし。

参考文献

プリントを適宜配布する

下記に挙げる文献は、購入の必要はない。しかし、もし公立図書館などでの閲覧・貸出によって手に取ることができれば、本講義の理解にプラスとなろう。
1 )本講義が対象とする時期のドイツ史の基本的な外観として、
・矢野久/アンゼルム・ファウスト『ドイツ社会史』(有斐閣コンパクト、2001年)が有益である。
2 ) 19世紀から20世紀のヨーロッパにおける医学・衛生学の展開について、
・ Willian Bynum『医学の歴史』(鈴木晃仁・鈴木実佳訳)(丸善出版(サイエンス・パレットシリーズ)、2015年)がコンパクトかつ的確に示している。
3 ) 19~20世紀における科学と社会の関係について、
・廣重徹『科学の社会史』(上下巻)(岩波現代文庫、2003年)(絶版中)
4 )とくにナチス期のドイツの医学・衛生学について本講義の後半部分の理解の助けとなるが、価格が非常に高いか、絶版になっており、購入は極めて難しい。したがって、慶應義塾の図書館や公立の図書館などでの利用を強くすすめる。
・エルンスト・クレー『第三帝国と安楽死:生きるに値しない生命の抹殺』(松下正明監訳)(批評社、1999年)
・ Ch. ブロス/ G. アリ編『人間の価値 1918年から1945年までのドイツの医学』(林功三訳)(風行社、1993年)
・アレキサンダー・ミッチャーリッヒ/フレート・ミールケ編『人間性なき医学:ナチスと人体実験』(金森誠也・安藤勉訳)(星雲社、2001年)
・ベンノ・ミュラー=ヒル『ホロコーストの科学:ナチの精神科医たち』(南光進一郎監訳)(岩波書店、1993年)
・カール=ビンディング/アルフレート=ホッヘ『「生きるに値しない命」とは誰のことか:ナチス安楽死思想の原典を読む』(森下直貴・佐野誠訳)(窓社、2001年)
・ヒュー G. ギャラファー『ナチスドイツと障害者「安楽死」計画』(長瀬修訳)(現代書館、1996年)
・木畑和子「民族の『健康』を目指して─第三帝国の保健衛生行政」川越修・矢野久編『ナチズムのなかの20世紀』(柏書房、2002年)所収
・木畑和子「第二次世界大戦下における『安楽死』問題」井上茂子他共編著『1939 ドイツ第三帝国と第二次世界大戦』(同文舘、1989年)所収
・川越修『社会国家の生成:20世紀社会とナチズム』(岩波書店、2004年)
上記の参考文献以外にも、講義において適宜示す。

受講上の要望、または受講上の前提条件

とくに必要とされる前提条件は無い。ただし、ドイツの19世紀末から20世紀にかけての歴史を題材とするので、これについて多少なりとも知識があるとよい。受講者は、たとえば、高校の世界史の教科書などでいいので、19~20世紀のヨーロッパ史についてみておくとよい。
レポートは、講義内容に即したものになるので、受講する学生はまず講義に耳を傾けてほしい。また、わからない部分があれば、講義の途中で質問してほしい。

なお、オンラインのライブ方式での講義となるので、端末(パソコンが見やすい)やインターネット環境(WiFiや有線LAN回線が使えること)を整えておくこと。
講義は休み時間をはさんでの2コマ通しとなる。真夏なので適宜に水分補給を行うとともに、楽な姿勢で聞くなど、健康に十分留意して講義に参加してほしい。また、講義中に休憩時間を設ける予定である。