講義要綱

　行政法は、国や地方公共団体という行政活動の主体が当事者として登場する法律問題を考察対象とする。私たちの日常生活を見渡せば、実に多種多様な行政活動が関わっていることが容易にわかるであろう。各種の公的手続に必要な住民票は、市町村が管理している。自動車を運転するには、都道府県の公安委員会が発行する免許が必要である。普段利用する鉄道の運賃は、国（国土交通大臣）の認可を受けたものである。このように行政法は、国や地方公共団体が広く深く関わっている社会システムの存在理由、構造と機能を法的な視点から議論し、国民と行政の関係を考えるのである。
　この科目を通じて、行政法について特に学ぶべきエッセンスとして、次の３つの観点を挙げておくこととした。第一に、行政活動には具体的にどのようなものがあるのか、またその法的な仕組み、特徴とはなにか。第二に、それらの行政活動は、いかなる場合に違法となるか。第三に、行政活動によって権利が侵害されたり、財産上の損害を被った国民は、どのような手続を通じて自己の権利や利益を回復することができるか。
　現代社会において、行政活動は、実に多くの場面で活発に行われ、かつ役割も重要である。そこでは、既存の法律や、これまでに積み上げられてきた判例・学説によって解決可能な問題ばかりではなく、新たに政策形成を試み、制度の構築を図る必要に迫られる問題もあるだろう。また、行政手続法、情報公開法、行政事件訴訟法、そして行政不服審査法などの主要な行政法規をめぐる判例の動きのみならず、規制改革・行政改革の波は、行政活動を取り巻く環境を着実に変化させてきた。現実の問題を前にしたとき、主権者たる国民にとって最善の解決策は何かということを常に考えながら、行政法の意義を学んでほしい。
　指定教科書の構成は次のとおりである。
　第１章　行政法の基本構造
　第２章　法律による行政の原理
　第３章　行政法の一般原則
　第４章　行政上の法律関係
　第５章　行政組織法
　第６章　行政基準
　第７章　行政行為
　第８章　行政裁量
　第９章　行政契約
　第10章　行政指導
　第11章　行政計画
　第12章　行政調査
　第13章　行政上の義務履行確保
　第14章　行政罰
　第15章　行政手続
　第16章　情報公開・個人情報保護
　第17章　行政上の救済手続
　第18章　行政事件訴訟法概観
　第19章　取消訴訟（その１）──訴訟要件
　第20章　取消訴訟（その２）──審理・判決・執行停止・教示
　第21章　取消訴訟以外の抗告訴訟
　第22章　当事者訴訟・争点訴訟
　第23章　国家賠償
　第24章　損失補償

テキスト

櫻井敬子・橋本博之『行政法〔第６版〕』弘文堂、2019年
※テキストは、最新版の使用が望ましいが、第５版でも差し支えはない。

テキストの読み方

　行政法の体系は、行政組織法、行政作用法、行政救済法から構成される。テキストに指定した櫻井敬子・橋本博之『行政法』は、このような行政法の体系全体をコンパクトに一冊にまとめたものである。参考文献に挙げた教科書・基本書には、同様に行政法の体系全体を一冊にまとめた稲葉ほか『行政法』もあれば、行政作用法（行政組織法の概略を含む）と行政救済法を分冊する大橋『行政法Ⅰ現代行政過程論』『行政法Ⅱ現代行政救済論』もある。いずれの場合も、とりわけ行政作用法と行政救済法が相互に連係することを意識しながら、読み進めるとよい。

履修上の注意

「憲法」及び「民法」の基礎を学んだうえで、履修すること。

関連科目

憲法、民法、民事訴訟法

成績評価方法

科目試験による。

参考文献

＊教科書・基本書
稲葉馨・人見剛・村上裕章・前田雅子『行政法』Legal Quest 有斐閣、第４版、2018年
大橋洋一『行政法Ⅰ現代行政過程論』有斐閣、第4版、2019年
大橋洋一『行政法Ⅱ現代行政救済論』有斐閣、第３版、2018年
＊学習用判例解説集
『判例百選』シリーズ
『重要判例解説』シリーズ

レポート作成上の注意

（1）　設問をよく読むこと。例年、設問の趣旨を無視し、「行政法とは何か」などを書いてくるレポートが散見される。
（2）　法学の基礎知識を確認すること。根拠条文の引用方法、裁判判決の出典の表記方法など、基本的な約束事が守られていない場合が多い。
（3）　構成を練ること。文章を書き連ねるだけでは、読み手に訴える説得力に乏しい。小見出しを付ける、（一部に）箇条書きのスタイルを取り入れる等の工夫を試みてほしい。『法学教室』、『法学セミナー』等の法律雑誌に掲載された論文等に接することも、書きかたを学ぶためには有益である。