科目名 | |||
---|---|---|---|
政治哲学 | |||
科目設置 | 法学部専門教育科目 | 授業形態 | テキスト科目 |
科目種別・類 | 甲類・乙類 | 単位 | 2 |
キャンパス | - | 共通開講学部 | - |
設置年度 | 2020 | 授業コード | T0EC002802 |
今日「国家」と呼ばれているのは、近代国民国家(nation-state)のことであるが、それは西洋世界でもたかだか四~五百年の歴史を持つものにすぎない。それ以前の政治共同体をそもそも「国家」と呼んでいいのかすら怪しいのである。国民国家とは、本来絶対主義が作り上げた領域的権力機構としてのstateを外枠とし、その内容を、人的共同体という古典古代に由来する国家概念の近代版として見いだされたnationという観念によって充たすことによって成立したものに他ならない。この国民国家は、様々な問題にうまく対処できた時期もあったが、地域統合やグローバル化が加速的に進展するなかで、二十世紀には国民国家の没落が語られるようになって久しい。それはその歴史的使命を終えたのだろうか。
また、通常は特定の文明間を横断して語られることのない「正義」は一国内部でドメステックに構想されることが多い。しかし本来的に正義の観念は普遍的なものでなければならないはずである。今日、それは「人権」、すなわち、すべての人間が生まれながらに有している最も基本的な権利を前提にせざるをえないからである。
近代政治の最大の問題点は、本来普遍的なものである人権を個別的な国民国家によって、「国民の権利」として保護してきたことから生じたといっても過言ではない。自国民の生命と財産を保護してくれるはずであった国家が、逆に自国民に牙を向けるという事態が生じたのが二十世紀という「戦争と革命の世紀」だった。
そこでまず、「国民国家」の概念と「正義」の概念、特に「国際正義」の概念を正しく理解するところから議論をはじめ、両者の関係を通時的に考察して欲しい。概念はひとつの分析道具である。その概念という分析道具をいかに上手く使いこなして自分が説明したい現象を明確に論じられるかがレポートのポイントとなるであろう。
デイヴィッド・ミラー『政治哲学(一冊でわかるシリーズ)』岩波書店、2005年
意味のよくわからない専門用語などはそのつど辞書や事典、ウエッブなどで調べてください。分からないまま、勝手な理解で読み進めていては勉強になりません。またテキストに書いてあることをそのまま受け入れ、覚えようとするのではなく、おかしいと思うところは自分でさらに調べ、自分の頭で理解し、自分の言葉で表現する癖をつけてください。
政治学、近代政治思想史、法学、法哲学の基礎知識が必要です。
科目試験による。
デイヴィッド・ミラー『国際正義とは何か——グローバル化とネーションとしての責任』風行社、2011年
デイヴィッド・ミラー『ナショナリティについて』風行社、2007年
マイケル・ウォルツァー『政治的に考える─マイケル・ウォルツァー論集』風行社、2012年
アイリス・マリオン・ヤング『正義への責任』岩波書店、2014年
押村高『国際正義の論理』講談社現代新書、2008年
井上達夫『世界正義論』筑摩選書、2012年
西川長夫『〔増補〕国境の越え方』平凡社ライブラリー、2001年
講義要綱に示したように、様々な「概念」は分析道具であり、実際にその道具をつかってどれだけうまく現実が説明できるかが重要である。そのためにはテキストはもちろんのこと、いくつか挙げておいた参考文献に可能な限り多く目を通し、自分なりに既存の「概念」を正しく理解して(あるいは必要ならば作り直しを行い)、このテーマに関してどのようなことが問題とされ、どのような議論がなされているのかをまず把握して欲しい。その上で、自分の考えを自分の言葉で表現するよう努めること。コピー&ペーストなど論外であるが、「写経」に近いようなレポートも評価しない。