慶應義塾大学通信教育部シラバス

科目名
社会調査
科目設置 文学部専門教育科目 授業形態 テキスト科目
科目種別・類 第1類 単位 2
キャンパス - 共通開講学部 -
設置年度 2022 授業コード T0EA100601

講義要綱

この講義では社会調査のなかでも質的調査法、特にライフストーリー・インタビューの実践をテーマとします。質的調査法とは、記憶や感情のように量的には捉えにくい人間の質的な経験を対象とする調査の総称です。個人というミクロな存在に焦点を定めて、たとえばインタビュー調査のようにライフストーリーを分析・解釈することを通して社会の理解を目指します。従来の実証的な社会調査の実践をふまえて、近年では対話的構築主義アプローチという手法が広まりをみせています。語り手と聞き手の相互行為としてインタビューを捉える手法です。この調査法は、他者との「対話」を思考のベースとする点に特徴があります。言うは易しの方法論に、個々の調査者はどのように取り組んできたのでしょうか。テキストと参考文献の読解を通して学習します。

テキスト

藤田結子・北村文(編)『現代エスノグラフィー 新しいフィールドワークの理論と実践』新曜社、2013年

テキストの読み方

この本には「新しいフィールドワークの理論と実践」というサブタイトルが付されています。本書で紹介される調査の認識論や方法論、個別的なテーマが、どのような意味で「新しい」のかを意識して批判的に読む必要があります。たとえば、第1部では「現代エスノグラフィーの展開」として「自己再帰性」「ポジショナリティ」「表象の政治」といった現代哲学の用語が紹介されています。これらは現代的な社会問題について調査をする上で共通して検討される概念です。こうした概念を学ぶことが、どうして「社会調査」を実践するうえで重要になるのかを考えながら読みましょう。具体的には他者の語りを聞くことと自己の成り立ちの関係というテーマが中心的な問題になります。また、各ページの下段には、関連する図書などが紹介されていますので、テキストの読解だけでは理解が追いつかない場合は参考文献とあわせて必要に応じて参照してください。


テキストの全体をとおして、これまで自分自身が生きてきた経験(学校、仕事、人間関係など)を振り返りなが読むことを推奨します。たとえば「ポジショナリティ」という用語の解説を読む時には、これまでの生活における偏見や差別にかかわる経験を振り返ってください。生活にねざした実感と感性にもとづいて専門的な用語を理解するようにこころがけましょう。同時に、専門用語を自分の言葉として使いこなせるように学習に取り組んでください。この本に書かれている内容を暗記する必要はありません。この本は、社会調査に関する知識を習得するためのものではなく、質的社会調査の作品を読み解くためのガイドブックです。

履修上の注意

テキストの読み方でも触れたように『現代エスノグラフィー』は質的調査による具体的な成果を読むためのガイドブックです。そのため、レポートの作成に際してはテキストとは別に、参考文献にあげるエスノグラフィのいずれかを具体例として読むことになります。参考文献にあげる図書は、それぞれ「アボリジニ」「在日朝鮮人」「長崎被爆者」に向き合ったインタビュー及びフィールドワークに基づく研究成果です。これらのテーマに限らず、差別、マイノリティ問題に「向きあう」ことへの関心を履修の前提とします。

関連科目

社会学史、教育社会学、都市社会学、社会学(専門)、社会学特殊など。

成績評価方法

レポートの合格を前提として科目試験によって評価する。

参考文献

保苅実『ラディカル・オーラル・ヒストリー オーストラリア先住民アボリジニの歴史実践』岩波書店、2018年
倉石一郎『差別と日常の経験社会学 解読する〈私〉の研究誌』生活書院、2007年
高山真『〈被爆者〉になる 変容する〈わたし〉のライフストーリー・インタビュー』せりか書房、2016年

レポート作成上の注意

以下の点に注意してレポートを作成すること
・テキストや参考文献の内容を要約するのではなく、内容を解釈して自身の言葉で論述する。
・文中でテキストや参考文献を引用する際には、出典(著者名、出版年、ページ数)を明記する。
・字数は3600字以上、4000字以内。
・個別具体的なテーマについて社会学的に考える視点を習得する。
・参考文献に掲示している『差別と日常の経験社会学』の第3章「教室における日常性批判の(不)可能性 二部学生による『在日』経験レポートを手がかりに」を通読する。