慶應義塾大学通信教育部シラバス

科目名
情報とインセンティブの経済学
科目設置 経済学部専門教育科目 授業形態 テキスト科目
科目種別・類 単位 4
キャンパス - 共通開講学部 -
設置年度 2022 授業コード T0EB100501

講義要綱

 新製品を供給する企業とそれを購入する消費者とのあいだの取引はこの経済に新たな価値を生み出します.企業は利潤を獲得し,消費者も購入した製品から満足を得るからです.また,適切にデザインされた企業組織は大きな価値を生み出します.従業員たちが目的を共有し,努力に勤しむからです.
 このように,自己利益の追求は多くの場合は経済に新たな価値をもたらします.けれども,そのためには取引のルールや組織が適切にデザインされている必要があります.もし失敗すれば,品質を偽った製品が供給されたり,不祥事を頻発する企業組織が生まれてしまいます.その様な事例は現実経済でもたくさん見つけることができるでしょう.
 本講義は「情報とインセンティブ」に着目し,品質を偽った製品が供給されたり,組織が適切に機能しない理由を経済理論を応用して理解します.そこでは,「誰が何を知っているのか」,という情報が重要な役割を果たします.そして,適切な取引ルール・制度・組織のデザインについて学びます.
 また,本講義を学ぶことで,経済学は現実の経済問題を分析・理解するための高性能で射程が広いツールかを実感することもできるでしょう.

 指定教科書の構成は次の通りです.


序章 情報・インセンティブ・契約

第1部 モラル・ハザードの問題と解決策
第1章 期待効用理論とリスク分担
第2章 モラル・ハザード:基礎編
第3章 モラル・ハザード:応用編
第4章 組織の中のモラル・ハザード

第2部 アドバース・セレクションの問題と解決策
第5章 アドバース・セレクション
第6章 シグナリング
第7章 スクリーニング

第3部 コミットメントの問題と解決策
第8章 コミットメント
第9章 不完備契約:基礎編
第10章 不完備契約:応用編

テキスト

石田潤一郎・玉田康成『情報とインセンティブの経済学』,有斐閣,2020年.

テキストの読み方

本テキストは情報とインセンティブにまつわる諸問題について,(1)経済学的な考え方,(2)数理モデルと論理展開,(3)現実経済への応用,の3点を意識しながら解説します.各章で現実経済から問題を見つけることで問題を個別に設定し,そして経済理論をもちいて分析をすすめます.トピックは広範囲にわたっていますが,現実経済の中から,経済学の分析対象となる問題をどのように設定しているのか,という点をよく意識して読み進めてください.そして,問題のロジカルな構造をよく理解してください.構造を理解することで,自分でも問題を発見できるようになります.

 本テキストの訂正情報や補論,演習問題の略解は以下のウェブサイトで確認してください.
http://www.yuhikaku.co.jp/books/detail/9784641150720

履修上の注意

経済原論(ミクロ経済学)や簡単な統計学の理解,および,初歩的な数学的知識と論理的思考を前提とします.

成績評価方法

科目試験によります.

参考文献

伊藤秀史『ひたすら読むエコノミクス』,有斐閣,2012年.
ジョン=マクミラン『市場を創る:バザールからネット取引まで(新版)』,慶應義塾大学出版会,2021年.
神戸伸輔『入門 ゲーム理論と情報の経済学』,有斐閣,2004年.

レポート作成上の注意

教科書を熟読して論理展開をよく理解してください.そして,正確な用語の使った論理的な説明をこころがけ,理解が伝わるようにレポートを作成してください.