慶應義塾大学通信教育部シラバス

科目名
破産法
科目設置 法学部専門教育科目 授業形態 テキスト科目
科目種別・類 甲類・乙類 単位 2
キャンパス - 共通開講学部 -
設置年度 2022 授業コード T0EC003604

講義要綱

倒産法は、倒産状態にある債務者につき、総債権者の公平を確保しつつ、債務者の財産の清算または債務者の再建・再生を図る手続を規律する。「倒産法」という法典はわが国には存在せず、倒産手続を規定する代表的な法律としては破産法、民事再生法、会社更生法および会社法第2編第9章第2節(特別清算)がある。中でも破産法は、債務者の事業を終了させた上で、総財産を換価し債権者に平等に分配する「清算型」の手続であり、対象とする債務者の資格に制限はない。破産法以外の3法は、多少の差はあれ破産法を基礎としているため、倒産法全体を理解するには、まずは破産法からということになる。指定教科書の構成(抜粋)は次の通りである。
 序 章 社会現象としての「倒産」と法制度の対応
 第1章 破産者
 第2章 破産裁判所
 第3章 破産手続上の機関
 第4章 破産手続開始の原因と破産手続開始の申立て
 第5章 破産手続開始の決定
 第6章 破産財団と自由財産
 第7章 破産と利害関係人(1)破産債権者
 第8章 破産と利害関係人(2)担保権者
 第9章 破産と利害関係人(3)取戻権者
 第10章 破産と利害関係人(4)相殺権を行使する者
 第11章 破産と利害関係人(5)契約の当事者
 第12章 破産と利害関係人(6)訴訟などの当事者
 第13章 破産と利害関係人(7)財団債権者
 第14章 破産と利害関係人(8)全部義務を負う者と債権者
 第15章 破産財団の維持と増殖─否認権
 第16章 破産財団の換価と配当
 第17章 破産手続の終了
 第18章 破産者の更生を助ける制度─免責・復権

テキスト

加藤哲夫『破産法』(弘文堂、第6版、2012年)
※第5版(2009年)で学習を進めても構いません。

テキストの読み方

破産手続は、裁判所、破産管財人、破産債権者など様々な主体の行為が積み重なって進行する。そこで、学習の初期の段階では細部に拘泥せず、手続の基本構造や、手続開始から終結までの大まかな流れを把握することが推奨される(下記の参考文献で「入門書」として紹介されている文献を通読してもよい)。その上で、個別の制度や議論が手続のどの段階で問題になるのかを意識しながら、必要に応じて参考文献も併用しさらに深く読み込むのが効率的である。
 また、「履修上の注意」でも述べているとおり、倒産法は、民法、民事訴訟法、民事執行法のいわば応用編であり、必要に応じこれらの復習も厭うべきではない。

履修上の注意

民法(財産法)および民事訴訟法を履修済みであることが望ましい。民事執行法は科目として設けられていないが、その基本的知識を有する方が破産法の理解が容易になる。

関連科目

民法、民事訴訟法、会社法、商法総則・商行為法、手形・小切手法

成績評価方法

科目試験による。

参考文献

(1) 入門書
山本和彦『倒産処理法入門』(有斐閣、第5版、2018年)
中島弘雅=佐藤鉄男『現代倒産手続法』(有斐閣、2013年)
徳田和幸『プレップ破産法』(弘文堂、第7版、2019年)
倉部真由美=高田賢治=上江洲純子『倒産法』(有斐閣、2018年)
三上威彦『概説倒産法』(信山社、2018年)
(2) 体系書
山本克己ほか『破産法・民事再生法概論』(商事法務、第2版、2012年)
伊藤眞『破産法・民事再生法』(有斐閣、第4版、2018年)
山本和彦ほか『倒産法概説』(弘文堂、第2版補訂版、2015年)
三上威彦『倒産法』(信山社、2017年)
(3) 判例集
伊藤眞=松下淳一編『倒産判例百選』(有斐閣、第5版、2013年)
瀬戸英雄=山本和彦編『倒産判例インデックス』(商事法務、第3版、2014年)
(4) コンメンタール
山本克己=小久保孝雄=中井康之編『新基本法コンメンタール破産法』(日本評論社、2014年)
伊藤眞ほか『条解破産法』(弘文堂、第3版、2020年)

レポート作成上の注意

事例問題では、①事案の分析・論点の抽出、②判例・裁判例や学説の議論の紹介、③自説の論証、④事案へのあてはめの順序で論じるのが定石である。一般的傾向として①や④がおろそかになり易く、時に事例に直接関係しない基本原則や制度を長々と論じる例が見受けられるので注意されたい。また、「判例」や「通説」はあくまで一つの考え方であり、直ちに「正解」となるものではない。それらを自説とすることは構わないが、対立する見解からの批判を克服する論証を③において行う必要がある。
 なお、参考文献に、司法試験予備校のテキストや、一般向けの安価なマニュアル本の類を用いるのは適切ではない。