慶應義塾大学通信教育部シラバス

科目名
アメリカ政治史
科目設置 法学部専門教育科目 授業形態 テキスト科目
科目種別・類 甲類・乙類 単位 4
キャンパス - 共通開講学部 -
設置年度 2022 授業コード T0EC008102

講義要綱

アメリカ合衆国の政治史の概説。植民地時代から現代までをバランスよく学ぶ。アメリカ政治の特徴についての歴史的なアプローチであるといってよいであろう。いわゆる文学部西洋史学科の歴史科目よりは政治学的あるいは理論的な分析視角が入っているものの、基本的に歴史であることには変わりがない。
 本科目においては、アメリカの国内政治の展開だけでなく、外交政策の展開も重視されている。日本にとってもっとも重要な国であるアメリカ合衆国の内政および外交について、とくに歴史的背景を重視して学びたいものに薦めたい。

テキスト

紀平英作編『YAMAKAWA SELECTION アメリカ史』上・下、山川出版社、2019年

テキストの読み方

【研究課題】
以下に、自主学習の目安として、練習問題を記す。(基本的に解答は本文のなかに存在するか、少なくとも示唆されている。)
第1章 北米イギリス植民地の建設と発展
問題一 18世紀後半にイギリスから独立する13植民地は、どのような政治社会的特徴を持っていたのか、地域間の比較をしつつまとめてみよう。
問題二 13植民地は、イギリス帝国内部、さらにはヨーロッパやアフリカを含めた大西洋世界においてどのような政治経済的な位置づけに置かれていただろうか。時期の違いにも留意しながらまとめてみよう。
第2章 独立から建国の時代
問題一 独立に至り、さらにアメリカ合衆国成立へと帰着する経緯を、反対派の存在にも注目して、他の文献も参照してまとめてみよう。これらの経緯はどの程度「必然的」であったといえるのであろうか。
問題二 建国初期の政治的対立のあり方は、現代のそれとどのように異なると考えられるだろうか。政党政治に着目してまとめてみよう。
第3章 共和国の成長と民主制の登場
問題一 19世紀初頭のアメリカにおいて、南部や西部といった地域的まとまりはいかなる政治的意義をもっただろうか。具体的な争点の展開にも注目しつつ、まとめてみよう。
問題二 「ジャクソニアン・デモクラシー」はどの程度「革命的」であったか。変化と継続の両面に注意を払いながら、他の文献も参照して考えてみよう。
第4章 「明白な運命」と南北対立の激化
問題一 黒人奴隷制の存続の是非をめぐっては、賛否両面から様々な議論が展開されたが、前章の記述も併せて整理してみよう。
問題二 領土の拡大に起因する出来事を中心に、奴隷制をめぐる南北対立の展開を整理してみよう。後の南北戦争は、歴史的必然だったのか、それとも別の解決がありえただろうか?
第5章 南北戦争と再建の時代
問題一 これまでのアメリカ史上最大の死者数を出した南北戦争は、その後のアメリカ史にどのような影響や記憶を残しているだろうか。他の文献にもあたってまとめてみよう。
問題二 戦後の再建はいかなる成果を生み、そこにはどのような限界があったのか、それぞれの原因を考えながらまとめてみよう。
第6章 爆発的工業化と激動の世紀末
問題一 南北戦争後の数十年を、戦前と20世紀の橋渡しをした時期と考えると、この間に現代につながるいかなる変化が生じたと考えられるか、政治を中心にまとめてみよう。
問題二 アメリカの労働運動、社会主義運動、そして農民運動の特徴は何か。他の文献も参照して調べてみよう。
問題三 婦人参政権運動、禁酒運動、移民制限運動など、19世紀半ばから1920年代にかけて登場した運動について、その勢力伸長の理由と運動の成果、支持した人びと、指導者などの側面に分け、他の文献も参照して調べてみよう。
問題四 人民党の運動と革新主義の運動を、担い手、目標とした政策、獲得した支持と成果、その遺産などの側面に分け、他の文献も参照しながら比較してみよう。
第7章 革新主義と世界大国アメリカ
問題一 革新主義運動はどのような形をとったのか、整理したうえで、それが後世にどのような影響を与えたのかまとめてみよう。
問題二 セオドア・ローズヴェルト、タフト、ウィルソンの革新主義との関わりを整理してみよう。
問題三 米西戦争を契機にアメリカの対外政策はどのように変化したといえるだろうか。また、それはどの程度、いかなる意味で「帝国主義的」だったといえるだろうか。まとめてみよう。
問題四 アメリカの第一次世界大戦との関わりは、どのようなものだったか、アメリカの国内社会への影響にも注意しながらまとめてみよう。この戦争は、その後のアメリカ史にとってどのような意味をもっただろうか。
第8章 繁栄と大恐慌
問題一 国際連盟加盟に反対した共和党の外交政策は1921年から1933年までどのように展開されたであろうか。それを孤立主義と断定することはどの程度妥当であろうか。他の文献も参照して調べてみよう。
問題二 大恐慌に対するフーヴァー、フランクリン・ローズヴェルト両政権の対策を比較すると、そこにはいかなる共通点と違いがあるだろうか。他の文献も参照して調べてみよう。
問題三 ニューディール政策は大きく二次に分けられ、その後行き詰まりへと変遷するが、それはアメリカの政治や国家機構のあり方をどのように変えただろうか。またそこにはいかなる限界があったといえるか、まとめてみよう。
問題四 アメリカの第二次世界大戦への参戦の過程と理由を、第一次世界大戦への参戦の過程と理由と比較しながら、他の文献も参照して検討してみよう。また、国内の政治状況、少数集団や戦争への批判者に対する対応ではどのような異同があったのであろうか。併せて調べてみよう。
問題五 「ニューディール連合」とは何か。その安定性の理由はどこに求められるか。それ以前の多数派連合とどのように違うか。また内部の対立要因ないし矛盾はどこにあったか。他の文献も参照して調べてみよう。
問題六 1930年代の南部の政治は、いかなる点で他の地域の政治と異なっていたか。またそれはニューディールの展開や戦争政策の展開に対して何らかの影響を及ぼしていたのであろうか。他の文献も参照して調べてみよう。
問題七 真珠湾攻撃にいたるまでの日米交渉では何が焦点であったか。戦争を避ける可能性はあったのだろうか。他の文献も参照して調べてみよう。
第9章 第二次世界大戦から冷戦へ
問題一 第二次世界大戦中のアメリカとイギリス、そしてソ連は、それぞれ何を目的としていたのだろうか。またローズヴェルト大統領の外交にはどのような特徴があったであろうか。他の文献も参照して調べてみよう。
問題二 大戦中に策定されていたアメリカの戦後構想はどのような性格を持っていただろうか。またそれはどの程度実現し、いかなる限界を持っていたのだろうか。
問題三 大戦を通じて、アメリカの社会はどのような変化を経験しただろうか。他の文献も参照して調べてみよう。
問題四 ソ連に対するローズヴェルト、トルーマン、アイゼンハワー、ケネディ、そしてジョンソン各政権の政策を比較検討し、ソ連との対立がどのように激化し、また緩和したかについて、他の文献も参照して調べてみよう。
問題五 ニューディール期に成立したアメリカの福祉国家はその後、トルーマン、アイゼンハワー、ケネディ、ジョンソンの各政権の下でどのように変化したであろうか。他の文献も参照して調べてみよう。
問題六 マッカーシズムはアメリカにおいて例外的現象であろうか、それともアメリカ本来の体質から直接的に発したものであろうか。他の文献も参照して考えてみよう。
第10章 パクス・アメリカーナとその陰りの始まり
問題一 南北戦争後の再建から1964年の市民権法成立まで約一世紀かかっているが、なぜ黒人の地位向上はこれほどの時間を要したのか、他の文献も参照して調べてみよう。
問題二 ジョン・F・ケネディは今日でもアメリカで国民的人気を誇るが、それはなぜか、他の文献も参照して調べてみよう。またケネディ政権の内政と外交はどう評価できるだろうか。
問題三 「偉大な社会」計画による改革とニューディール期の改革を、その担い手、課題、目標、政治的支持集団などの点から、他の文献も参照しながら比較検討しなさい。
問題四 アメリカがベトナム戦争に深入りしたのは特定の政権の責任であろうか。それともアメリカの外交政策が本来的にもっていた体質の故であろうか。他の文献も参照して、自分の考えをまとめてみよう。
問題五 対抗文化やフェミニズムに代表される、それまでの社会のあり方に対する異議申し立ては、中長期的にみていかなる政治的な影響をもったと考えられるだろうか。
問題六 ニクソン=キッシンジャー外交はアメリカ外交史においてどのような特徴をもっているか。他の文献も参照して調べてみよう。
問題七 20世紀を通じて、「帝王的大統領制」はいかにして生み出されたと考えられるだろうか。
第11章 新自由主義を掲げて
問題一 共和党はレーガンを当選させるにあたって、どのようなそれまでと違う新規の政策を用意したのであろうか。アメリカの保守主義はどのような過程を経て、いかなる理由で復活したのであろうか。他の文献も参照して調べてみよう。
問題二 レーガン外交の特徴はどこにみられるであろうか。同じ共和党のニクソン=キッシンジャー外交とどのように異なっていたのであろうか。他の文献も参照して調べてみよう。
問題三 ニューディール連合はいかなる過程を経て、いかなる理由で解体したと考えられるであろうか。またこんにち、民主党と共和党はどのような集団から支持されているのであろうか。他の文献も参照して調べてみよう。
問題四 クリントンは自らを「ニュー・デモクラット」(新しい民主党員)と定義しているが、彼はどのような点でそれまでの民主党政治家と異なり、どの部分で同じなのであろうか。他の文献も参照して調べてみよう。
問題五 1994年中間選挙で勝利して翌年から成立した共和党多数議会は、それまで40年間の議会と、内政、外交、あるいは大統領との関係などにおいて、どのように異なっていたであろうか。他の文献も参照して調べてみよう。
問題六 民主党が1992年と1996年の大統領選挙で連続して勝利を収めた要因は何であろうか。また、中間選挙としては例外的に1998年に民主党が議席を増やした原因は何であろうか。他の文献も参照して調べてみよう。
問題七 冷戦の終結によって、アメリカの対外政策の課題はどのように変化したと考えられるだろうか。ブッシュ(父)、クリントン両政権の対応を比較しつつ考えてみよう。

テキストだけでもかなり詳細に解説されているものの、併せて以下の本とともに読みすすめればより高度な理解が可能になるであろう。
 大下尚一・有賀貞・志邨晃佑・平野孝編『史料が語るアメリカ:1584─1988』(有斐閣、1989年)
   歴史的に重要な資料を訳出した簡便な資料集。テキストと並行して読みすすめることを強く薦めたい。
 有賀夏紀・紀平英作・油井大三郎編『アメリカ史研究入門』(山川出版社、2009年)
   基本的な歴史の流れをおさえた読者向けに、最新の研究動向を時期別・テーマ別に平易に紹介しており、文献調査の方法も示されている。テキストを読んだうえで是非読み進んでほしい。
 岡山裕・西山隆行編『アメリカの政治』(弘文堂、2019年)
   アメリカ政治の初歩をわかりやすく解説。
 有賀貞『アメリカ・ヒストリカルガイド』(改訂新版)(山川出版社、2012年)
   政治を中心にアメリカ史をコンパクトに解説。
 有賀貞・大下尚一・志邨晃佑・平野孝編『アメリカ史1・2』(山川出版社、1993、94年)
   細かい事実を調査するのに便利。必要に応じて適宜参照されたい。
 シリーズ アメリカ合衆国史①~④、和田光弘『植民地から建国へ』、貴堂嘉之『南北戦争の世紀』、中野耕太郎『20世紀アメリカの夢』、古矢旬『グローバル時代のアメリカ』(2019,2020年、岩波新書)
   各時期についての日本での第一人者による最新の簡潔な通史。
 アメリカ学会訳編『原典アメリカ史1─9』(岩波書店)
   歴史的展開の概説と資料の訳出およびその解説からなるきわめて有益な参考書。くわしく知りたいテーマについて学習する際に非常に便利である。
 アメリカ学会編『アメリカ文化事典』(丸善出版、2018年)
 荒このみ他編『アメリカを知る事典』新版(平凡社、2012年)
   上2点は、アメリカの歴史や社会の重要な事項について日本における第一人者が執筆した項目からなる、信頼のおける事典である。調べ物の入り口として大変有用である。

履修上の注意

歴史を単に事実の羅列として捉えるのでなく、なぜあることが起きた・起きなかったのかを因果的に説明できるようになること、また短期的な動きだけでなく長期的な流れを把握することを目指してほしい。

成績評価方法

科目試験による。

参考文献

阿川尚之『憲法で読むアメリカ史(全)』(ちくま学芸文庫、2013年)
ゴードン・S・ウッド(中野勝郎訳)『アメリカ独立革命』(岩波書店、2016年)
梅川健『大統領が変えるアメリカの三権分立制―署名時声明をめぐる議会との攻防』(東京大学出版会、2015年)
岡山裕『アメリカの政党政治―建国から250年の軌跡』(中公新書)
佐藤千登勢『フランクリン・ローズヴェルト―大恐慌と大戦に挑んだ指導者』(中公新書、2021年)
砂田一郎『アメリカ大統領の権力―変質するリーダーシップ』(中公新書、2004年)
待鳥聡史『アメリカ大統領制の現在―権限の弱さをどう乗り越えるか』(NHKブックス、2016年)

レポート作成上の注意

さまざまな参考文献を読み足した上で、レポートのどこで文献のどこを参照したのかがわかるように、適切な形式で注をつけて作成すること(末尾に文献リストを掲げるだけでは不十分である)。