慶應義塾大学通信教育部シラバス

科目名
道徳教育論
科目設置 教職科目 授業形態 テキスト科目
科目種別・類 教職 単位 2
キャンパス - 共通開講学部 -
設置年度 2022 授業コード T0F0003302

講義要綱

本科目は、中学校教育職員免許状取得を念頭に、学校の教育活動全体を通じて行うものとされる道徳教育について多角的に考察することを目的とします。
道徳教育が抱える本質的な問題は、実は古来より哲学・倫理学が繰り返し問うてきた問題であり、公式的な解答が得られるものではありません。一方で、教科化に即して改訂されたはずの現行学習指導要領の内容項目の中には、それ自体すでに生徒たちの思考を必要以上に制限するのではないか、と思われるものが少なくありません。文部科学省からは、内容項目の習得を目指して執筆された教科書の使用は絶対ではない、という見解が示されていますが、同省教科書調査官の講演では教科書の使用が強く推奨されたりもしています。
こうした複雑な状況において道徳教育を実施するに当たっては、学習指導要領の指示に従おうとするだけでなくむしろ、学習指導要領を批判的に相対化し客観視することが求められます。この相対化をするに際して、受講生の皆さんは自分自身にとって当たり前である「道徳」そのものを一旦自分自身から引き離して俯瞰視する作業をも欠くことができません。
テキストは、少し古いが上記の課題に応え得る書物です。教育哲学者の手によるこのテキストは、道徳教育を単に授業ノウハウの問題に落とし込んだりせずに、現代日本の道徳教育の問題点を的確に指摘し、かつ乗り越えるヒントをもたらしていますので、ぜひ積極的に学んでいただきたいと思います。構成は以下の通りです。

はじめに―道徳教育ってつまらない?
第1章 読み物資料の奇妙な世界
第2章 道徳教育の道徳度を問う
第3章 歴史は語る―学校の道徳教育の非情さ
第4章 別の道徳教育へ
第5章 学校の外に広がる道徳ワンダーランド
第6章 学校がなくても道徳は学べる―共同体道徳を学ぶということ
第7章 生命尊重をめぐる危機?
第8章 迷走する道徳教育-市場モラルがもたらす分裂
第9章 ルールに、ご用心
おわりに これまでの道徳教育に別れを告げよう

テキスト

松下良平『道徳教育はホントに道徳的か?─「生きづらさ」の背景を探る』日本図書センター、2011年。(絶版だがAmazon等で古書として購入可能です。)
平成27年度3月改定版中学校学習指導要領第3章「特別の教科道徳」、および中学校学習指導要領解説特別の教科道徳篇(いずれも文科省ホームページからPDFファイルをダウンロードして入手できます。)

テキストの読み方

全体をざっと一読した後、レポート課題に直接関係する個所を重点的に読んでください。
また、このテキストは道徳教育全般について分かり易く、かつ深く掘り下げて考察している得難い著作ですので、レポート課題および科目試験対策に止まらず全頁をさらに熟読することを薦めます。

履修上の注意

レポート、科目試験共にテキストの内容理解が不十分な場合、たとえ他の参考文献を読み込んでいたとしても不合格にいたします。

成績評価方法

科目試験によります。

参考文献

宇佐美寛『「道徳」授業に何ができるか(教育新書)』明治図書、1989年
パオロ・マッツァリーノ『みんなの道徳解体新書』ちくまプリマー新書、2016年
堀越英美『不道徳お母さん講座 私たちはなぜ母性と自己犠牲に感動するのか』河出書房新社、2018年
越野章史『市民のための道徳教育─民主主義を支える道徳の探究─』部落問題研究所、2016年
藤川大祐『道徳教育は「いじめ」をなくせるのか 教師が明日からできること』NHK出版、2018年
藤川大祐『道徳授業の迷宮~ゲーミフィケーションで脱出せよ~』学事出版、2018年
木野正一郎『新発想!道徳のアクティブ・ラーニング型授業はこれだ』みくに出版、2016年
杉原里美『掃除で心は磨けるのか』筑摩書房、2019年
生田武志、北村年子『子どもに「ホームレス」をどう伝えるか いじめ・襲撃をなくすために』太郎次郎社エディタス、2013年
大森直樹『道徳教育と愛国心』岩波書店、2018年
土屋陽介『僕らの世界を作りかえる哲学の授業』青春新書、2019年
ローラント・ヴォルフガング・ヘンケ編集代表『ドイツの道徳教科書 5,6年実践哲学科の価値教育』明石書店、2019年
荒木寿友『学校における対話とコミュニティの形成』三省堂、2013年
浪本勝年ほか編『史料 道徳教育を考える(4改訂版)』 北樹出版 2017年他多数

レポート作成上の注意

テキスト、学習指導要領とその解説編に加え、その他参考文献に挙げた複数の書籍をじっくり読み込んで、学習指導要領に対して自らの意見を持ったと自覚できた時点で書き始めてください。
当方が参考文献に指定していない書籍を加えて読んでもよいのですが、道徳教育に関する古い書物の中、とりわけ教職課程の「教科書」として書かれたものには、退屈を極めているだけでなく本質から外れているものも多いです。できれば道徳教育に関する概説的な書物を避け、特定のテーマについて論じた書物を選ぶとよいです。
一般論で言えば、教科化が決定した2015年前後から興味深く読める書物が増えてきているので、参考にしてください。