慶應義塾大学通信教育部シラバス

科目名
歴史(西洋史)
担当教員名
舟橋 倫子
科目設置 総合教育科目 授業形態 夏期スクーリング
科目種別・類 3分野科目/人文科学分野 単位 2
キャンパス 日吉 共通開講学部 -
設置年度 2022 授業コード 12212
開講期間 I期 8/8~8/13 曜日・時間等 1~2限 9:00~12:45

授業科目の内容

この授業では、私たちがリアルに体験している現代社会の問題(疫病・環境・グローバリゼーション・社会の分断・格差・貧困等)を、ヨーロッパの歴史を対象として共に考えてゆくことを目指しています。歴史の授業では近現代が中心とされがちですが、ヨーロッパという世界はそれ以前の時代に形成され、成熟してゆきました。従って、古代から近世までを中心として、ヨーロッパの文化と歴史が形成されてゆく様を検討してゆきます。
 歴史を学ぶことは単に過去の出来事を覚えることではありません。それは、現代の私たちの生きているリアルな世界の成り立ちを考える作業なのです。新型コロナウィルスの流行は私たちの世界を大きく変えつつあります。しかも、これは一時的な現象ではなく、私たちはこのウイルスと共に、運命共同体となった世界で生きてゆかなくてはならないのです。近年、ウイルスよるパンデミックが頻繁に世界を襲うようになってきたのは、私たちの社会に内包されてきた様々な問題によるものです。それらは決して単独で存在していたわけではなく、相互に緊密に関連しあっていました。コロナ危機はそのような諸問題の相互関連が急速な悪循環によって沸点に達し、一気に目に見える形で爆発した人類の歴史の所産といえるでしょう。コロナ時代を生きる私たちにとって、歴史を学ぶとは、そのような諸問題の総体を考えることなのです
 新型コロナの流行が例えワクチン等の開発によって終息に向かったとしても、コロナ前の世界が再び帰ってくるわけではありません。それは古代末期から近世までヨーロッパを何度も襲ったペストの大流行が人々の価値観と社会・経済構造に根本的な変革を引き起こしたことを想起させます。また、この危機的状況が今後、全世界規模で地域的・時間的偏差のなかで繰り返されてゆくことは、古代末期から産業革命期までの長い間、ヨーロッパの人々が支配階級も含めて常に飢餓と共に暮らしてきたことを思い起こさせます。この間ヨーロッパにおける平均寿命は40歳に満たず、「お腹一杯食べること」が人々の望みでした。しかし、その希望がかなうことは難しく、人々は飢餓と飢饉と共にあり、それらをなんとか飼いならし、折り合いをつけるために食料生産と再分配のシステムの開発とアップデートという不断の努力を重ねてきました。恒常的な飢餓と様々に形を変える危機的状況に適応することが生きることだったのです。
 グローバリゼーションの進む現代社会においては全世界を視野に入れた検討を行うのが理想的ですが、問題を深く掘り下げてゆくために共通の歴史をもつヨーロッパという地域に的を絞って一つのモデルとして検証をすすめるという方法を採ってゆきます。共通の土台をもつヨーロッパにおいては、連動して動く運命共同体というダイナミズムを系統的にみてゆくことができるからです。さらに、多様な要素の相互作用と緊張関係が地域社会全体に活力がもたらし、対立や矛盾から新たなモデルが生み出されていったことを明確に見て取れるからです。ヨーロッパ社会は気候変動・飢饉・疫病によって何度も物理的・精神的な「危機的状況」に陥ってきました。本講義ではそれらの危機を「変動」・「転換」と捉え、社会の変化を分析する契機として考えてみたいと思っています。

第1回講義内容
地中海世界:ローマの世界 文化的重層性と寛容

第2回講義内容
ローマ帝国とキリスト教:内的分裂と統合への新たな試み

第3回講義内容
ローマ人とゲルマン人:移民(受け入れか排除か)・他者との共存

第4回講義内容
中世社会の形成:中世初期・フランク王国の形成:キリスト教と国家

第5回講義内容
中世盛期・農村の世界:共同体形成と封建社会

第6回講義内容
中世盛期・都市の世界:新たな社会秩序と流通経済の発展

第7回講義内容
経済発展のダイナミズム:格差と闘争

第8回講義内容
中世末期の危機:飢饉と疫病

第9回講義内容
宗教改革のエネルギー

第10回講義内容
植民地:ヨーロッパの拡大と矛盾

第11回講義内容
ヨーロッパの多様性と統合:総括

第12回講義内容
総括

その他の学習内容
  ・課題・レポート
  ・毎回の授業の感想や質問をリアクションペーパーとして提出してください。これが平常点となります。成績の3割とします。

成績評価方法

最終授業において、授業内試験を行います。持ち込み可で記述式の試験です。これが7割の成績評価となりますので、最終試験を受けない場合は単位がでません。

テキスト(教科書)※教科書は変更となる可能性がございます。

プリントを適宜配布する

参考文献

大学で学ぶ西洋史「古代・中世」/服部良久、南川高志、山辺規子編著 ミネルヴァ書房 2006
大学で学ぶ西洋史「近現代」/小山哲、上垣豊、山田史郎、杉本淑彦編著 ミネルヴァ書房 2011
西洋史概説Ⅰ/神崎忠昭 通信テキスト 2015
食の歴史/J-L.フランドラン、M.モンタナーリ編、宮原信・北代美和子監訳 藤原書店 2006

受講上の要望、または受講上の前提条件

高等学校で履修する程度の世界史の知識があることを前提として講義を進めます。